門前払い
「はあっ? てめぇは、何しに来たんだよ!」
それは魔法属性が無い、と申告した直後のことである。
例の暴力少年が、さっそくリュシアンに突っかかってきた。あとで担任に聞いたが、名前はダリルというらしい。
さすがに流血沙汰を起こしたということで、一日の謹慎と反省文を書かされたらしいが、たいして反省はしていないようだ。彼のこういった態度はいつものことなのか、周りの反応はまたやってる、といささか冷ややかである。
魔法科全般は、今日からしばらく新入生も交えてⅠ~Ⅲまでの合同授業だ。ちなみにここは、魔法科攻撃魔のクラスである。ダリルは攻撃魔Ⅲの先輩ということだ。
そして先ほどのリュシアンの申告には、ダリルほどはっきりと拒絶はしないものの、全員「え、それってどうするの?」的な顔はしていた。
Ⅰクラスを受け持つ教師も、少し戸惑ったように先輩教師の意見を待っている。
これほどまでに門外漢扱いされるとは予想してなかった。なぜならリュシアンは、魔法が使えないわけではないからである。
「大丈夫ですよ、僕はこれを使いますから」
フリーバックからいくつかの巻物を出すと、再び微妙な空気になった。
「……残念ながら、魔法陣を使っての魔法はここでの授業ではやりません。もし魔法陣の勉強をしたいなら、魔法研究科魔法陣への移動を推奨しますよ」
魔法科攻撃魔Ⅲの教師エイミー・モランシーは、どう答えたらいいか戸惑う後輩教師に代わってそう答えた。エイミーはわずかながら人の魔力の量を測ることができるので、リュシアンがかなりの魔力を持っているのはわかっていた。それだけに少し同情的にもなっていたのだ。
(ああ、あの例の魔法研究科か……、って! だから)
「魔法陣の研究がしたいんじゃありません。あ、いや、それはそれでしたいんだけど……そうじゃなくて、僕は魔法を使いたいんです」
実践魔法をもっと使わないと、いつまでたっても巻物もうまく使えないし、やっぱりきちんと習わないといざモンスターと対峙したときパニックになる。そういう意味でも実戦形式の魔法科が良いと思ったのだが、まさか入る前につまづくとは思わなかった。
「属性のねえカスは、こんなところに来る資格はないってこった。しっぽ巻いて失せな」
相変わらずダリルが絡んで来たが、リュシアンはそれどころではなかった。何事もなかったように流されたダリルは、懲りずにさらにいちゃもんをつけている。
「お前……っ、いい加減にしろよ」
切れたのはリュシアンではなく、エドガーだった。
「さっきからごちゃごちゃと、お前には関係ないだろうが! これ以上、俺のおとう…うぐっ!?」
そして続いたセリフに、リュシアンは驚くべく速さでツッコミを入れた。
(そこで挑発に乗らなくていいから! そして余計なことは言わないでね)
身を乗り出そうとしたエドガーの脇腹に、目にもとまらぬ速さで肘鉄をめり込ませたのである。まともに入ったらしく、エドガーはちょっと涙目で恨めしそうにリュシアンを見た。
(ごめん、ちょい強かったか。でも弟はやめて、いろいろ面倒くさいからね)
兄にめちゃくちゃ憧れている彼としては、もしからしたらリュシアンにも自分を兄だと認めてもらいたいのかもしれない。片目をつぶってコッソリ謝ると、ダリルのことは完全無視で流すようにお願いした。
「先生、この巻物を僕が作ったものだと言っても、魔法科は不適合だと思いますか?」
魔法陣を使った魔法が認められないのは、それが自分の力ではないからではないかと考えて、リュシアンは教師にそう問いかけた。なぜなら、言ってみれば、カンニングしてテストを受けるようなものだからだ。
ここは学校なのだから、自分の力を伸ばす場所でなければならない。
「魔法は使えます。手段が違うだけなんです」
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