精霊
「はい、連れてきたよ」
そこには精霊術師の親子と、無表情のまま壁にもたれかかる精霊の姿があった。
幼い娘の頭の上には、なぜかチョビが乗っている。ちょっと得意気なのは気のせいではないだろう。あんな見た目のチョビだが、なぜか子供にはとても受けがいい。もはや「たらし」のレベルである。
そして所在無く視線を動かす母親の横には、いかにも「どや」とでも言いたげなリンがいた。また人型に戻っている。
「……すごい急展開だね」
僕もエルマン様も、呆気に取られてしばらく言葉が出なかった。なにしろ、リンが出て行ってから、まだ数分しかたってない。
精霊の様子を見に行くとは言っていたけど、それこそ速攻で引っ張って来るとは思わなかった。
「この方が手っ取り早いからね。あ、紹介するね。こちらは精霊術師で、お母さんの方がアヴァ、この子はダルシーだよ」
まるで旧知の知り合いのごとく、親し気に紹介するリン。このコミュ力は見習いたいものだが、リンの場合はどちらかといえば遠慮がないだけかもしれない。そのまま続けて、不愛想な青年を指さす。
「それで、さっきから睨みつけてる無礼な精霊は、ミドリ。ドライアドと同じ系統に見えるけど、もっと大きな範疇の存在だよ」
「ミドリ……」
見たままの、そのまんまである。従魔契約と同様、契約時に名を付けるそうだから、その時に名付けられたのだろう。母親の方が精霊術師とのことだが、名前からして幼い頃に契約したのかもしれない。
もっと大きな、ということは、この大神殿がある周辺すべて、小さくは葉を伝う水滴、湖、草木から大木、大きくは森林、もしかしたら大瀑布さえも含んでいるのかもしれない。
「こうみえてかなり上位の精霊だよ」
「こう見えては余計だ」
初めて聞く彼の声は、どこか密閉された空間で反射しているかのような不思議な響きがあった。
男性体の精霊だが、髪はまっすぐ伸ばせば足首くらいまで長く、それを水のように透き通った飾り玉でいくつか留めて、ゆったりと首に巻いている。
精霊の格は基本的に生まれてから消滅するまで変わらないが、人と契約することにより、それが良くも悪くも変化することがある。
「例の大瀑布の精霊がそのいい例だよ」
リンはさらに続ける。
「あれは元々、大瀑布の飛沫の一つ、雫の精霊だった。一年足らずで役目を終えて、輪廻し、また雫になる。そんな単純な役割の微精霊だったんだ」
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