久しぶりの再会
「久しぶりだね、リン。元気そうでよかったよ」
「うん、まあね。でも正直なところ、それって、こっちのセリフなんだけどね」
リンのもっともな切り返しに、僕は苦笑するしかない。
神子の館にいきなり光の塊が降りてきたと、表が騒がしくなり、わらわらと衛兵が集まって、それはもう大騒ぎになった。武器を構えていた兵たちも、リンが姿を見せるや、慌てて切っ先を下ろし、騒ぎに集まった神官たちもその場に平伏した。
「ごめん、すぐにみんなに連絡出来たらよかったんだけど……」
「まあ、状況はわかってるから大丈夫」
これほどの長期間、全くの行方不明のままだったら、魔界も、それこそニーナ達だって黙っているはずがない。僕が眠っている間、記憶が覚束なくて停滞していた間、下手に国家間で争いにならないように、また、暴走しそうな仲間たちをも制御してくれていたようだ。
「聞きました。エルマン様が、報告してくださってたとか」
「彼には、もともと潜入して貰ってたからね、間が良かったというか、たまたま功を奏したというか。それこそディリィなんかは、彼じゃなかったら止められてなかったと思うよ。下手すりゃ、教会と魔界で、聖魔大戦争という図式だったからね」
冗談話にしても怖すぎるが、もともと今回のことがなくても、ありえなくもない話だというから驚いた。教皇と魔王はもともと旧知の仲で、エルマンが潜入していた理由も、ここ最近の教会上層部の腐敗と、新皇帝を立てた帝国の不穏な動きを調査するためとのことだった。
教皇の今の不調が、教会内部の闘争によるものや、帝国の陰謀かもしれないと疑ったわけだ。
「それにしても、そんな恰好をしていると本当にシャーロットにそっくりだね。ちょうど彼女に出会った幼い頃の姿に瓜二つだよ」
「えと……そう? なんか複雑だけど」
母親に似ていると言われれば、もちろん嬉しくないわけはないが、微妙な気持ちになるのは仕方がない。約半年とちょっとの間、まともに日光にあたることも、激しく運動することもなかったのだ。確かに、ちょっと、いやかなり、なまっちょろくなった気がしないでもない。
自分で鏡を見ても、ちょっとどうかと思うくらいの神子姫ぶりで、正直げんなりしてしまう。
「……それにしても、どうしてゾラは出てこないの? なんかまずい?」
さっさと話題を変えるためにも、初めから気になっていたことを聞いた。リンがこの部屋に入った時から、実は気が付いていたが、いつ自分から姿を現すかと待っていたのだ。
「あれ? やっぱり気が付いた?」
リンは、どこか楽しそうに答えた。まったく人が悪い。僕が気が付いているのをわかっていて、あえて黙っていたのである。
僕にとっては、この数年間、それこそ片時も離れなかった気配だ。異界に姿を消しているのはいつものことなので、かえって馴染みの感覚といっていい。
「ゾラ」
静かに呼ぶと、空気が揺れて狭間から一つの影が姿を現した。深く顔を伏せ、無言のまま片膝をついている。こちらから話しかけないと、きっと顔をあげることはないだろう。
「ゾラ……心配かけてごめん。無事で本当に良かった」
「そっ……」
思わず顔をあげたが、慌ててすぐに顔を伏せる。
あの時の命令は、ゾラにとっては残酷とも言えた。わかっていても、それが最善だと思ったからそう命じた。直接動いたのはチョビだったが、ただ逃がされたゾラは辛かっただろう。
「ま、精霊使いの方はボクに任せておいてよ」
そう言ってリンは、テーブルの上のチョビを頭にのせた。久しぶりに再会した主従に遠慮して席を立ったのか、ただ単に用事をすませるためなのか、ともかく獣の姿に変わって部屋を出て行った。
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