神子の条件
かれこれ半年以上ぶりのリンの声に、不覚にも涙腺が緩みそうになった。
自覚はそれほどなかったが、今までどれだけ張りつめた状態だったのか、初めて気が付いた。見知らぬ場所、慣れない役割、そしてほぼ知らない人々に囲まれた日々。
記憶が戻ってからは、本格的に借りてきた猫状態だった。
かえって何もわからない状態の方がマシだった。チョビやペシュがいなかったと思うと怖くなるほどに、訳の分からない孤独感が半端なかったのだ。
「リン……みんなは元気?」
それまでの会話とは、全く関係ない質問だったけど、聞かずにはおれなかった。
『うん、元気。いや、むしろ元気すぎてディリィが頭を抱えるくらいだよ』
やれやれと肩を竦めるリンの姿が見えるようだ。正直なところ、簡単に想像が出来て、つい笑ってしまった。
『たぶんね、リュシアンの想像通りだよ。一時期は、助けに行くんだと大騒ぎしてた。教会が絡んでるのはわかってたからね。もちろん魔王もブチ切れてたけど、国が動けば戦争になっちゃうからさ。それでも、本当は教皇を通じて穏便に事を運ぶはずだったんだ』
「あ……そうか、教皇様は」
『そう、問題はそこだったんだ。教皇がすぐに動けなかった。盛り上がっている複数の枢機卿を一度に黙らせるほどの発言力がなかった』
教皇派の筆頭はマリーアン様だけど、一人では手に負えなかったってことか。
『それに、神子制度復活は正式に決まってて、世界に大々的に公表された後だったこともあってさ。ここで、攫われてきた無辜の少年が、人権を無視されて神殿に閉じ込められていた、なんてことになれば神殿ひいては女神信仰の根幹が傷つきかねないからね』
『もともと信仰が翳っていたところに、そんなことになれば致命的だからな』
リンの言葉尻に続いて、マリーアン様がぽつりとつぶやく。
『神子様、いや、リュシアン君には本当に申し訳ないと思っている。あの跳ね上がりどもが、独断で行ったこととはいえ、強引に攫ってくるなど言語道断だ』
「マリーアン様が謝る必要はないですよ。理不尽ではありますが、乗り掛かった舟ですし、今回の行事は最後まで神子をやろうって決めてますから」
『そう言ってもらえると嬉しい。確かに許せることではないが、君が神子候補の条件を満たしていることは、あの馬鹿者たちでなくとも考えることだしな』
マリーアン様の言葉に、僕は少し間を置いて答えた。
「……ハイエルフだから、ですか?」
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