マリーアンとの会談
「教皇様に会うことはできないでしょうか?」
禊の儀の前日に、思いきってエルマン様にそう言った。
少し驚いた顔をしたエルマン様は、そのあと顔を伏せるようにして黙り込み、やがて意外にも破顔した。
途中、あまりに真剣な顔だったので、怒られるかと思った。
『やはり兄弟、ということだな。以心伝心というやつか?』
すると、どこからともなく女性の声がする。
それこそ僕は飛び上がらんばかりに驚いた。なぜなら、ここにはエルマン様と僕しかいないはずなのだから。
思わずきょろきょろと辺りを探したが、その声はすぐ耳元で聞こえてくる。
「え、ペシュ? これって、ペシュが喋ってるの?」
「正確には、アイを通じてマリーアン様と話しているんだ」
そういえば、アイはマリーアン様に預けてあるって言っていた。それじゃあ、このために?
「どこにいても、間者はいるからね。君と、教皇様側のマリーアン様が会うのを見られるのも、会話を聞かれるのも、あまり都合がよくなかったんだ」
それで、このチャンスを待っていたと。確かに、ここなら誰にも見られないし、神子は隔離状態で誰とも会うことができないのだから、この会談を予見することもできないだろう。
ペシュを通じて、僕は、マリーアン様から今の教会の内部事情を、かなり大まかではあるが聞くことができた。何もわからないうちに攫われ、記憶障害が重なり、神子という特殊な環境で、部屋の外にほとんど出なかった。だからほとんど何も知ることができなかったのだ。
『神子様の記憶が回復されて本当によかった。あの状態では、たとえ本当のことを話しても、私達のことを信じてもらえるか不安だったので』
それは間違いない。あの時の僕では、どちらも信用することができなかったのだから。
「それでは、教皇様は本当に臥せっておられるのですか?」
『……はい、最近では意識さえ戻ぬ状態で』
聞くところによると、高位の魔法も、錬金薬もあまり効果がないということだ。
『はいはーい、そこからはボクが説明するよ』
突き抜けるような高い声が、マリーアン様との会話に、突如割り込んできた。沈鬱な空気を吹き飛ばすような、そんな口調と声には、確かに聞き覚えがあった。
「え、……え? うそ、リンなの」
相変わらず元気な様子で、ペシュの向こう側でおそらく手を振っているだろう、それは僕のよく知る、神獣のリンであった。
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