声2
「ああ、届いているようだな。よかった、ペシュのスキル次第では難しいと思ったが、どうやら通信できるようで安心した」
俺の戸惑いをよそに、ペシュは続けて口を開いた。
なんというか、女の子の可愛い唇から、男の人の声が聞こえるのはとんでもない違和感だった。それでも、相手の口ぶりからペシュの能力であるらしいことがわかった。
「……あんた、誰だ?」
「えっ……ああ、直接会って会話をしたことはないが、わからないかな? こうして話すのは、三度目だ」
あまりに驚くので、声を聞いたらわかって当たり前の間柄だったのだろうか? それはちょっと悪いことをしたな。声だけの機微ではあるが、相手がちょっとばかりションボリしているのがわかった。
「あ、えと。悪い、知り合いだったか。俺、どうも記憶がはっきりしなくて……というか、ペシュのこの状態は大丈夫なのか? さっきから、凍り付いたように動かないんだが」
「……記憶?」
何らかの齟齬に引っかかったのか、相手は独り言のように呟いて、しばし言葉を切った。
「いや、そ、そうだな、とりあえずペシュのことなら大丈夫だ。アイ、こちらのコウモリのことだが、今は強引に彼女がペシュの能力を引き出しているせいもあるだろう。もっともこの子は、俺の従魔ではないが……とまあ、細かいことは今はいい。それよりも……」
動揺を隠しているのか、急にまくしたてるように説明して、話を変えた。
「具合が悪いようだな? 私達は何度も君との面会を申し出ているのだが、それが原因で叶わないでいる。よもや監禁でもされているのではないかと心配になったんだけど」
彼は、記憶をなくす前の俺を知っているらしい。ペシュのことも知っていたし、それでこんな形でコンタクトを取ってきたようだ。もっともこの声の主を信じれば、ということになるけれど。
それでも、なぜかこの声には聞き覚えがあるような気がした。三度声を交わしただけと彼は言っていたが、本当にそれだけだろうか? 昔どこかで、この優しい声に寝かしつけられたような、そんなおかしな記憶が蘇ってきた。
「……監禁じゃない。調子が悪いのは本当だしな」
「なるほど、具合が悪いというのは言い訳ではなかったか」
「とにかく疲れやすいし、食欲もない……たぶんこの身体が、あまり丈夫でないってこともありそうだけど」
俺の受け答えに、またもや相手は沈黙した。
あれ、しまった。なんか、ちょっと変な言い回しだったかな。
「……ああ、そうか! だから、その頃ロランが……なるほどね」
すると、なにやら思いついたようで、急に声のトーンが明るくなった。きっと吹き出しがあったら、電球マークが点灯したことだろう。
「……今、私にわかることは正直あまりないけれど、少なくともその体調の事だけなら、ちょっとはアドバイスできるかもしれないよ」
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