神官姿の青年
白いレースが天井から吊られたベッドの住人の様子をうかがって、背の高い女性が音をたてぬようにそっと部屋を後にした。寝室から居間へと移動すると、そこには指を組んで祈るようにこちらを振り向いた少女と、その横で軽く会釈をした青年が待っていた。さらに青年の横には、半分身を隠すようにひっそりと黒髪の少女が立っている。
「ご様子はいかがでしたか?」
グレーのメイド服を着た少女が心配そうに聞く。
「変わらぬよ、あれ以来一度も目を覚まされぬ。で、あちらからは何か知らせはあったか?」
整った顔立ちのすらりとした女性は、年の頃二十代後半くらいに見えるが、エルフであるため実際にはもっと上の年齢である。白い長衣に金の刺繍が入った飾り帯を肩から掛けており、彼女もまた枢機卿という身分である。
名をマリーアン、通名なので家名を示す姓はない。
問いかけられた少女の方は、彼女の部屋付きの世話係でティナだ。
「はい、あちらでも大騒ぎだったようですが、こちらからの回答にさらに戸惑っているようです」
「まあ……さもありなん、だな」
マリーアンがため息交じりの苦笑を浮かべると、青年が間に入ってきた。
「……本当に、彼ではないのでしょうか」
「わからぬ、実際に会ってみなければなんとも言えぬな。ただ、本人自らの証言もあり、それを周りの者も認めておるようだし、一概にすべてが虚偽というわけではないだろう」
「……面会はできないのでしょうか?」
「そうだな……今はまだ療養中とのことで断られたが、どのみち正式に承認ともなれば隠してはおけまいよ」
青年は何か言いたそうだったが、それを飲み込んで静かに頷いた。
少年の域をようやく過ぎた年頃の彼は、それでもそこに立っているだけで只者ではない何かを隠し持っているような佇まいがあった。服装でいえば一般神官のものだったが、それが本来の姿でないことは見るものが見ればすぐに分かっただろう。
マリーアンはもちろんそれを承知している様子だった。
「ところで、その娘はだれだ?」
青年の後ろに控える少女に見覚えがなく、彼女は首を傾げた。この青年が、不用意に見知らぬ人間をここに連れてくるとは思わなかったので、少し咎めるような口調になっている。
そんな非難めいたマリーアンに、けれど青年の答えはあっけらかんとしたものだった。
「彼女なら、いつも僕の横にいましたよ。そして、例の少年がその人なら、彼女は大いに役に立つはずです」
長い黒髪、黒い瞳。ペシュによく似た少女が、そこに立っていた。
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