足元の
「面白い形状ね、ここんとこ、どうやってくっついてんの?」
「ああ、これは……ほらここ、重複してる項目があるでしょ、これと、これを重ねてるんだよ」
「……うわ、細かいわね」
「一番苦労したところなんだ。今のは、もっと簡略化してるよ」
意外に魔法陣オタクのカトリーヌは、珍しい形の魔法陣に喰い気味になっている。もともと魔法陣を研究しているクラブである。発動実験などもよくやっているので、まわりには体育系に思われているが、結構な知識人の集まりのようである。
「それで、発動するのに魔力は?」
「魔力は変わらないよ、オリジナルと。ただ魔法紙一枚にまとめたせいか、難易度が上がっちゃったみたいなんだ」
この魔法陣は、今現在、僕も魔法陣魔法で発動できる。
したがって、写生と同じように魔力を筆がわりに魔法陣を顕現し、発動させずに、それこそ念写できるのでは? と検証したことがあった。結果としては、巻物……紙という可燃物は、ケシズミになった。
どうやら写生と同じようにはいかないようである。
では、魔法陣魔法の使い手の古代エルフたちは、どうやって転移魔法陣を対象物へ留めたのか。
いろいろなことが明らかになる中で、新たな疑問や謎も同じだけ増えてゆく。それこそ「三歩進んで二歩下がる」状態だが、これについては、少しだけだが前進してはいるのだ。
――数日前。
「この巻物でもダメなの? 結局、なんの鉱石かわからないのね」
ラムネットさんが、転移魔法陣に張り付くようにして、その土台を凝視している。感触を確かめるように撫でまわし、最後は八つ当たりするようにぺチッと叩いている。
それまで転移魔法を徹底的に研究してきて、今になって土台となっている鉱石の正体が、わからないことに気が付いた。きっかけは、僕だ。
古代エルフと同じ魔法の使い方をする僕が、写生が出来ないという事実。それなら、古代エルフも写生出来なかったのではないか? と逆説的に考え、もしかして描かれている土台に秘密が!? となった訳だ。
僕は結構懐疑的だったのだが、ここへきて信憑性が出てきた。
なぜなら、簡単に鑑定できなかった。
この現象はつまり、その対象物が鑑定できない程の高レベルな「何か」なのだ。
僕達は今、ダンジョンにいた。
外部から雇った冒険者の護衛のもと、例の海蝕洞窟ダンジョンの地下二十階辺りに辿りついていた。ワープのある階層ならどこでもよかったのだが、冒険者の情報で、ここのワープ陣が空白地帯に存在することがわかっていたからだ。
「反応は金属、かしら……でも、やっぱり研磨した石に見えるわね。これが錬金で加工されたものなら、よっぽどの練度よね。それにここ、魔石が嵌め込まれている留め金と、周りの術式……ねぇ、まだ上位の巻物ある?」
「ラムネットさん、待って。僕が、鑑定しましょうか?」
「え? リュシアン君、鑑定できたっけ?」
「いえ、出来ないですが、巻物すぐ描けるんで……」
鑑定の魔法陣なら、それこそ数年前に王立図書館で博物館級のを暗記している。もちろん、普通に発動は出来ないが、なんちゃって巻物を使っての魔法なら、以前同様に使える。
言い出すのが遅れたのは、素で使えることを忘れていた。
「すみません、普通に忘れてて」
「そんな、すごく助かるわ。これ以上の巻物になると、上司に報告しないと手に入らないから」
「少しだけ時間かかりますけれど、僕が知る一番上のでやってみます」
ランクを口にするといろいろ面倒くさそうなので、その辺は適当にぼかして、僕は床に少し大きめの厚紙を広げた。魔法陣魔法のタネがわかった今となっては、なんだかこの工程が滑稽に思えるが、まだほとんどの魔法はこのワンクッションを置かないと発動出来ないので仕方がない。
種別としてはスキルに分類されるのか、魔法陣は黒のラインで描かれる。発動時は、白色だ。
ラムネットさんの前では何度かやって見せたが、さすがにここまで大きな魔法陣は初めてである。描き終えて皆を見ると、一様に口を開けたまま沈黙している。
うん、ここでパパッと普通に魔法陣魔法を唱えられれば、もうちょっと素直に胸を張れたんだけどね。
「なにを言っているのよ。仮置きの魔法陣だって知ってはいても、それだけのものを一瞬で描けるだけで、十分驚きに値するわよ」
なんて、ラムネットさんは気を使ってくれたけど……まあ、いいや。ともかく僕は、その巻物を手に一つ呼吸を整える。同じランクのマッピングを使った時、急激な魔力の低下で気持ち悪くなった記憶がちょっとだけ蘇った。
まあ鑑定だし、そこまでじゃないと思うけどね。
「じゃあ、行きますね」
お読みくださりありがとうございました。




