カエデの実家へ
久しぶりの帰郷ということで、カエデの実家の方へも行くことになった。考えてみたら前回は、ゴタゴタしすぎて庭先をちょっと見たくらいだ。
湖畔からの小道を少し行ったところにカエデの実家はある。
村の集落からは少し離れた場所だ。元々は貴族、それも公爵という王家の親戚筋であったティファンヌ公爵家。
公爵家離宮があった湖畔の、そのお膝元であった小さな村は、ティファンヌの名を失った家族を受け入れはしたものの、さすがに懐深くは迎え入れなかった。
カエデの父親は鬼人族で、今は魔王城に仕えており普段はほとんど不在らしい。実家には、エルフの兄と帝都の商業ギルドに努める人族の妹、ときどきアリソンさんを手伝いに来る親戚の従妹、それからダークエルフの祖父がいるらしい。
カエデの祖父のことは、話しだけは聞いていたので会ってみたいと思っていた。
「なんだか可愛くて素敵なお家ね。庭先に立派な畑もあるわ」
「本当だ、裏までずっと続いている……裏は果樹園かな」
前にきたとき荒れ果てていたカエデの家は、今は綺麗に整えられていた。
確かに古いことは古いけれど、屋根は新しく葺き替えられ、家の横から裏にかけて広がる大きな畑は、隅々まで手入れが行き届いており、豊かに作物が実っていた。
湖畔にあるギルド兼管理小屋より少し大きいくらいの小さな家ではあるが、外から見ても、そこに住む人が幸せに暮らしているだろうと感じられる佇まいであった。
「よかった……」
思わず漏らした僕の声に、カエデが嬉しそうに振り向き「うん」と頷いた。
カエデだってあれ以来の帰宅なのだから、心配だったに違いない。
兄弟や従妹たちは、昼間は働きに出ているらしく家には祖父一人でいるらしい。アリソンさんが、朝方は畑仕事をしていたと言っていたので、玄関でなく畑の方へ歩いて行った。
「おや、カエデじゃないか。帰っていたのか?」
すると裏の畑の方から、年齢を感じるしゃがれた声と共に、白髪頭の老人がやってきた。
「おじいちゃん!」
カエデが嬉しそうな声を上げると、その老人は日に焼けた顔を優し気にほころばせた。
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