魔法陣魔法
現状、僕とリンだけが使える魔法、界渡り。
以前は麒麟という種族も複数いたとされるから、もしかしたら他にも使い手がいるのかもしれないが、少なくとも近々での情報ではそうなっている。
僕の場合は、魔法として使っているというより、そういう能力として使っていると思っている。何故なら魔法陣が出現しないし、呪文だって唱えてないからだ。呪文がわからないから、魔法陣に起こすこともできない。
そこですべてが行き詰まっているといっていい。
「魔法陣? そりゃあるさ。魔法だもん」
「………えっ、魔法なの?」
「魔法だよ、なんだと思ったの? 正確にはボクが使っているのとはちょっとだけ違うけど、リュシアンが使ってるのは魔法だよ」
「あれ? そう、なの。でも、魔法陣なんて……」
僕は魔法属性を持っていないので、魔法を使うとしたら体外で術式を形成しなくてはならない。その形式として魔法陣を魔力で編むプロセスを踏んでいるわけだが、今まで界渡りで魔法陣を見たことがない。
「魔法陣なら出てたはずだよ。ただし、世界の狭間にね。君たちはそこを潜って世界を跨いでいるんだよ」
リンの「界渡り」は異能、つまり麒麟のユニークスキルだということだ。
「界渡りと移動魔法は基本は同じ魔法なんだ。どっちもマーカー、つまり対象物に向かって、時間、世界、空間を飛び越えることができる魔法なんだ」
リンは平然として答えたが、僕はちょっとだけ背筋が寒くなった。便利とかそういうのを通り越して、人智を越えた領域の力のような気がしたからだ。
「今も残る転移の魔法陣は、かつてのエルフが残したものだよ。その昔、神の子として存在した頃の叡智の残滓とでもいうのかな……」
僕とリンは、すでに寮の明かりが見える地点まで歩いて来ていた。そこで、リンが足を止める。
「リュシアンの魔法の使い方は、なんというか……古いんだ」
「……ふ、古い?」
いきなりディスられてる? ダメってこと? 属性持ってない時点でダメなのはわかってるんだけど。
「あえていうなら、今時じゃないのさ。ボクはわりと若いから知らなかったんだけど、ある人に聞いたら、それって古代エルフの魔法の使い方なんだよね」
何処から突っ込んだらいいのか、わからない。この数分の会話で、さらっとズゴイ情報が山積みになって、驚くというより戸惑いの方が大きかった。
そんな僕の様子を見て、リンは少しだけ笑った。
「言っておくけど、これって退化してるって意味じゃないからね。もちろん、今時のエルフは魔法陣魔法なんて使わないけど、そのせいで失ったものもあったというわけさ」
「……失ったもの?」
「そう、容量さ」
「え、要領? って、いいとか悪いとかの?」
「違う違う、んーとなんていうのかな、大きさ? てか、規模っていうの? 体内の魔力だけで練る、もしくは巻物なんかのアイテムの中でだけ完結する魔法と違って、大気、大地、精霊なんかも含めた、自然に存在する魔力を巻き込んで魔法を使うことができるってことさ。そもそも、それが魔法陣魔法なんだよ」
なんとなく、ストンと理解が落ちてきた。
理屈ではなく、単純にそうだったんだとわかってしまったというか。
そもそも「人」が持ちうる魔力だけでは転移魔法は使えない、とそういうことなのだ。なにしろ、基本にしているのが古代エルフ、すなわち神の子が残した魔法で、使い方によっては時間も、世界も飛び越えてしまう人智を越えた魔法。
「あ、そうそう、今でも魔法陣魔法を使っている種族がいるとしたら、上位精霊くらいだよ」
そうこうしている間に、リンは姿を麒麟に変えて「じゃあね」と、地面を蹴った。相変わらず気まぐれというか、いつも風のように現れて、風のようにいなくちゃったうんだよね。
でも今回は、本当に助かった。大変なことを知っちゃったような気もしないでもないけど。
それでも、何かが進みそうな予感がした。
寮の方を見ると、エドガーやニーナ達がこちらに向かってくるのが見えた。再び空を見上げると、麒麟が蹴った部分が、光の軌跡となって夜空の向こうへ静かに消えていった。
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