新学期前日
半分カモフラージュ的ではあるが、僕もこの秋から留学生として一般の学生と一緒に授業を受けることになる。とはいえ、高等部上位ともなるとクラス単位で授業を受けることはほとんどなく、全員が集合するのはオリエンテーションや週に一度の朝礼の時くらいだ。
基本的には、数人から数十人のコロニーからなる課題研究や、選択授業がほとんどになる。この辺は、ドリスタンの学園と同じだ。
なので、特にこちらにずっと居なくてもグループで活動している分には、一人くらいいなくてもそれほど目立たないというわけだ。また、いつも同じメンバーでもなく、流動的にメンバーが変わることも珍しくないらしい。
「明日から新学期ね。学生もほとんど戻って来たし、寮でも私たちのことを興味津々のようよ」
そう声を掛けたのはニーナである。長い髪を手で押さえながら小首をかしげる彼女は、お嬢様風のシックなワンピースベースの制服姿が、すでに板についていて、とても似合っていた。
「まあ、仕方がないよね」
実際に目立っているし……。
特に僕は、知識の塔の予備研究員という認識だそうだ。頻繁に塔へ出入りすることになるので、ある程度は身分を開示しておいた方がいいと判断したのだろう。
始めから塔の研究員として招集すればいいのでは? とも考えたが、どうやら「僕」の争奪戦を繰り広げた教会や帝国からの横槍が入り、完全に塔の関係者にしたくないとの思惑が働いたようだ。
要するに、知識の塔、ひいては魔界の一人勝ちにしたくないので、飽くまで外部からの協力者という体裁を保ちたい、という裏の事情のようだ。
僕としては学校にも興味があったので別に構わないけど……一言いわせてもらえば、面倒くさい。
「それで、今日は塔の方に行かないの?」
「さすがに明日は初日だからね。準備もあるし……」
新学期を明日に控え、僕は学校の中央地区へ向かう小道を歩いていた。
途中には中等部の校舎や、大きな多目的競技場、うっそうと生い茂る木々、手入れされた花畑など、つぎつぎ移り変わる景色が目を楽しませてくれる。
「私達は結構余裕あったけど、リュシアンはここ数日塔の方に詰めてたものね」
僕は、ちょっとだけ大きい制服をつま先から順に一瞥して、まだ着慣れない制服に思わず肩を竦めた。ずっと普段着の上に支給された白衣を着ていたので、いまだに制服姿がしっくりこないのだ。
学校が始まれば、制服の上に白衣を着ることになるのだから、はやく慣れなくてはならない。
「新学期からの数日は、こっちを優先することになるみたい」
選択科目の決定に、各種オリエンテーション、所属クラブの紹介イベントなど、一週間くらいはかかるとのことだ。僕としても、あまり中途半端に行ったり来たりしたくないので、全部決めて落ち着いてから、改めてあちらと合流する方がいいと思っている。
「……それにしても、みんなは別に一緒に来なくてもよかったんだよ」
僕とニーナの脇で、楽しそうに会話に花を咲かせているアリスとカエデに、そう声を掛けた。
「いいの、私達も中央の購買部にはなかなか行かないし、ついでにいろいろ揃えたかったのよ」
中央地区の購買部。ほぼすべての物が揃う万屋でもあるそこには、各種ギルドの出張所が併設されている。冒険者ギルドの簡単な更新手続きや、商業ギルドで扱う商品を売買することができる店舗まであるのだ。
「そうそう、それに最近はあまり一緒に居られないんだもん」
アリスに続いて、カエデはちょっとだけ拗ねたように答えた。
ちなみにダリルとエドガーは、男二人で鍛冶と錬金に精を出していた。金属加工の鍛冶は、ドリスタンの学園では錬金のついでにちらっとしかやらないが、ここではガッツリ鍛冶のコースがあるのだ。
ドワーフを養父に持つダリルは、それなりに鍛冶に興味を持っていたらしく、こちらに来てちょっとハマり気味のようである。学園では対抗意識から魔法にこだわり続けていたダリルだったけれど、今は興味を持つもの何にでも挑戦したいようだ。
余談だが、エドガーを相手に大型のメイスを持って、派手に打ち合っているようである。本格的に近接打撃も出来る魔法使いになりそうだ。
ゼロ距離から避けられない魔法を放つことができれば、結構脅威なのではないかと面白く思った。
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