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転移魔法陣2

 幾つかの魔法陣を経て、ようやく目的の場所へ着いた。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 ラムネットさんがそう声を掛けると、数人の白衣姿の人達が会釈をしながら集まった。このエリアはラムネットさんにとっては本来は管轄外ではあるが、今回のプロジェクトでは魔道具研究所と魔法陣研究所は協力関係にあるらしい。

 僕も数日前、挨拶だけは済ませてある。


「あれ? 今日からだっけ、新学期始まってからかと思ったけど」


 そう言って僕の顔を確認したのは、確かエルフ族のトマさん。かなり若く……むしろ十代くらいに見えるけど、驚いたことにもうすぐ三十路に届く年齢らしい。


「本格的にはそうなる予定よ。リュシアン君も一応は高等科の生徒扱いだから」

「そうか、学生か……懐かしいなあ」


 まるで少年のような姿で、昔を懐かしむように頷くトマさん。今時はエルフといえど、成長速度は他種族と変わらないと聞くが、共通して魔力が高い人は寿命が長く、いつまでも若い傾向があるようだ。

 ということで、トマさんには今現在どれくらい研究が進んでいるか、どのような事をやっているかなど、お話を聞かせてもらえるようだ。

 転移魔法陣――すなわち、新たな転移装置の開発。

 そして究極には、その延長で異世界間も魔法陣で転移できるのか、ということを。

 実は、リンの界渡りを使って、既存の転移魔法を両方の世界に置いて移動できるか試みたようだが、結果はダメだったらしい。しかも、異界を跨ぐことで魔法陣を定着させていた魔石が崩れ、永続化も無効になったのか貴重な装置を壊してしまったようだ。

 今までも、転移装置を移動させる際は細心の注意を払って行っているし、基本的には研究以外の理由で移動させたりはしないとのことだ。なにしろ壊れたらおしまいの装置、実験さえもそう簡単にできないのである。

 

「もともとダンジョン内は特殊な空間で、何故だか転移装置も老朽化や変異が緩やかなのよね」


 現存する魔法陣のほとんどはダンジョンに有り、保存のためにも元ある場所からは滅多に動かせない。そう言った意味でも、普通に転移の魔法陣を描くことができる僕が呼ばれたのだろう。

 むろん僕の巻物は覚書ではあるが、それでも実際に発動できるということは、僕が転移の魔法が使えるという証ではある。

 本来、巻物は魔法そのものだ。

 特別な処理をした紙に、魔力を伝道する魔水を浸した道具で己の魔法を仮置きしているに過ぎない。

 写生――それは自分が使える、もしくは使える素質のある魔法を、専用の道具の力を使って発動、定着させるスキル。だから厳密に言えば、写生のレベルイコール、己の魔法能力となる。

 自分に見合ったレベル以上の写生しか出来ないというカラクリはまさにそこなのだ。


「でも、僕は写生のスキルは……」

「あなたの場合、写生のスキルは必要ないわ。だって魔法を発動する時、ちゃんと描いてるじゃない。写生のスキルがないのは、たぶん必要がないからよ」


 魔法発動の度に展開する魔法陣のことを言っているのだろうか? あれって、写生と同じ原理ってこと?


「だから理屈的には、あなたも写生とおなじことがインクの代わりに魔力を使って出来るはずなのよ。覚書ではなく、ちゃんと呪文を編みながら魔法陣を展開して、対象物に定着させる……それが、ね」


 僕は今まで普通に巻物を作って、それを使っていたと思っていたけど、あれは巻物の魔法陣をなぞって、その場で魔法を発動していたということになる。

 使わなくちゃいけないと思っていた巻物を使わずに、魔法陣を発動する。

 言うほど簡単に出来てたら、とっくにやってるんだけどね。これまでも何度か試してみたし。


「まずは、とにかく新しい転移装置ね」


 それが第一段階、とラムネットは人差し指を立てた。


「そして、異界を渡ることができる転移装置の作成が可能かどうかの検証」


 そう言って、もう一本指を立てた。

 界渡りの能力は、リンも同様だが、僕も能力を使う際に魔法陣は展開しない。

 ラムネット曰く、それが生まれ持ったスキルのためだろうとのことだ。ただ、既存の転移魔法陣を参考に呪文の研究は進んでいるので、曲がりなりにも魔法陣の形をなせば、不完全でも発動実験ができるかもしれない、とこういうわけだ。

 とにかく貴重な転移魔法陣、現物を使えないストレスが相当たまっていたのか、研究員たちの僕を見る目がとてつもなく期待に満ち溢れていた。

お読みくださりありがとうございました。

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