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転移魔法陣

 知識の塔として、把握している階層は六十階層くらいまでらしい。

 唯一の出入り口は一階で、そこには案内所兼受付があり、フロアーには塔への出入り許可がある無しに関わらず使用できる広いロビーがある。

 ロビーから階段で移動できる階は、予備研究員たちの研究室や教室があり、正規の研究室を持つ研究員たちは、ここから魔法陣を使って移動することになる。


「まずは魔法陣研究所の区画、特に転移魔法陣の解析や老朽化した転移装置を修復したりしているチームに合流してもらうわ」


 いよいよ今日は、詳しい説明を聞くことになるらしく、同行者はラムネットのみだ。他のみんなは、数日後に迫った新学期に向けて本格的に準備を始めたらしい。

 僕も新学期初日には登校する必要があるので、せめて一日くらいは準備の時間が欲しい。

 ここ数日の塔の見学と、ラムネットの説明、そして複数あった誓約書などをみて推測するに、僕に対して協力を求められているのは、すごくざっくりいうと転移装置を新たに作ること。

 これがどれほど困難なことなのかは、今ある転移装置が全て千年以上前に作られた遺物だということを考えれば、火を見るよりも明らかである。


「今から行くのは、前回行ったことがある三十階のもう一つ上のエリア、三十九階層から始まる三階層分の区画よ」

「……魔道具のエリアから、少し間があるんですね?」

「ええ、三十六階層から三十八階層は空白の階層なの。もちろん存在しているんでしょうけれど、故障、もしくは欠損している魔法陣があるんでしょうね」


 すでに使えない魔法陣なんかもあるって言ってたからね。

 転移の魔法陣は完全に失われた技術で、せいぜいが維持するための保護だとか、多少の修復くらいが限界だと聞いた。魔法陣がそこにあっても、誰にも唱えることもできないし、写生もできないのだ。

 これまでの過程を整理すると、僕の魔法の使い方は、思い込みで「魔法陣」を念写したつもりになり、それを「使う」という感覚で無詠唱で魔法を発動していたようだ。

 なので、転移の魔法も実は行ったことがある場所なら、巻物がなくても行けるということになる。無意識に何度か行った界渡りの場合は、どちらかというと場所ではなく「相手」にも引っ張られるようなので、もしかしたらそれ以外にも条件はあるのかもしれないけれど……。

 まあ、どちらにしろ今現在に至ってさえ、巻物というアイテムなしでは発動出来ないんだけどね。もどかしいけれど、こればっかりは思うようにいかないので仕方がない。

 完全に身体に染みついた順序、というか「巻物がなくては魔法が発動しない」という呪縛に取りつかれているようで、危機に陥ったり、切迫した場面でしか本来の力を発揮できなくなっているようだ。「属性がない、それなら巻物で」という、書物からの固定観念のせいかもしれない。


「頭でっかちなのも考えものだなぁ……」


 良かれと思ってしこたま詰め込んだ知識が、かえって仇になったのかもしれない。

 なにしろ当初魔法陣が現れた時、それがうまくいかなかったとなるや、すぐに写生、巻物、という次の代案を思いつき、ろくに執着したり躍起になることもなかったのだ。

 もとからそういうところはあったように思う。もと、というのはもちろん前世のことだ。

 壁があったらがむしゃらにツルハシでぶち破るより、その壁を慎重に調べたうえで横に穴がないか、崩れそうなところはないか、それとも乗り越える手段はないかと、考える性格なのだ。

 今となっては、あの頃の記憶はぼんやりしていて個人としての記憶は薄れつつある。もともと僕は「僕」で、前世の記憶はそれこそフィルターの向こう、他人事のような記憶でしかないのだ。

 それなのに、こうして折に触れ影響を受けていると自覚するのだから、なんとなく可笑しな気分だった。


「あれ? 名前って……なんだっけ」


 もちろん、今となっては重要なことではなかったが、それでも何故だか思い出すことに躍起になってしまった。おかげでずいぶん先を行くラムネットに、ちょっとだけお小言を食らうことになった。

お読みくださりありがとうございました。

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