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ベアトリーチェの羽

「……ダンジョンを思い出すわね」


 ニーナがそう感想を述べると、ラムネットが笑いながら答えた。


「そうね、ほとんど同じよ。もっとも、私はダンジョンに潜ったことはないんだけど」


 知識の塔、内部。

 ベアトリーチェが塔の見学を強く希望したので、最初に女子のみを連れて幾つかの研究施設を回ることにした。とはいえ、僕の挨拶廻りも兼ねていたので、あくまで僕がこれから出入りする予定の階層に限っての範囲だ。

 先ほどのニーナの感想は、ロビーの魔法陣から飛んだ際のものだ。


「この塔は以前ダンジョンだったとも伝えられているくらいだしね。移動に使う魔法陣は、元からあるもので私達も簡単に弄れないのよ。少しの損傷くらいなら、なんとか修理できるんだけどね」


 あまりに不具合が続くと使用不可になり、年々、そんな階層が増えているのも悩みの種だとも聞いた。確かに、いきなり通行が出来なくなって閉じ込められたら目も当てられないからね。


「外から見ると塔は細長いのに、こうして中に入ってみるとすごく広く感じるわ」

「……扉ばっかり並んでて、ちょっと不思議」


 アリスとカエデがキョロキョロと周りを見回している。


「三十階は、もっと上の階に続く魔法陣がたくさん設置されてて、後付けで個室に区切ったためにこんな扉ばっかりのフロアーになったのよ。このエリアの研究室は、五階層あって階段で上っていけるわ」

「階段……あっ、見つけたのじゃ!」


 ニーナやアリス、カエデは塔自体のシステムや様子を楽しんでいたが、どうやらベアトリーチェの目的は飽くまで研究所の方であった。


「ベアトリーチェ様、走らないでください。危ないですよ」


 彼女の塔への切望は、周囲を見返してやりたいという気持からだと思われた。ここ数日、彼女と行動し、話しを聞いたりしてそれに気が付いた。

 現在は、各教室、施設ともに学生は少ないが、それでもまわりの彼女への態度はひっかかりを覚えた。仮にも王女という身分の彼女に、無遠慮にヒソヒソ様子を窺うような態度を取ったり、あからさまに避けたりしていると感じたからだ。

 生まれを誇るより、己の能力で権力を勝ち取る下剋上を良しとする魔界では、身分におもねることは少ないと聞くけれど、こについては興味本位というか、面白がっているというか……。

 この感じは、ダリルに向けられていたものに似ている気がする。

 

「……妾が飛べぬ鳥人族だからじゃ」


 それとなく聞いた僕に、ベアトリーチェは不満そうに黙り込んだあと、睨むようにじっと顔を見てそう言った。


「そういえば、ジャンが翼の有る種族は飛べるって言ってたね」

「見てわかるじゃろ、妾の羽はこの通りひどく小さい。……それで、飛べぬのじゃ」


 確かに、ベアトリーチェの羽はこじんまりしている。

 比べてユアン先生の羽は、折りたたんだ状態でも彼の身長と変わらぬくらいの大きさがあった。魔族に多いとされる飛膜の羽は、皮膚の一部で骨も柔軟でうまく隠すことも出来るらしいが、羽毛の翼はそのボリュームゆえに不可能とされている。例外は、僕も使ったことがある変化の魔法を使うことだ。

 僕から見たら、小さくて可愛らしい羽毛の翼はとても素敵だと思うけど、ベアトリーチェにしてみれば隠したくても隠せない劣等感の塊なのだろう。

 でも、ジャンの話だと飛行能力と翼の大きさは、ほとんど関係ないように思えるんだけどね……。

 なぜなら鳥人族は、魔族、獣人問わず特別のスキルを持っている。

 それが種族系特殊スキルの一つ、飛翔。

 例外となる神獣麒麟を除いて、翼を持つ種族にしか持ちえない特別なスキルである。羽は、はばたきによって高度をあげたり、方向や角度を調整するのに使う程度だと聞いた。

 それが本当なら、羽の大きさは関係ないと思う。

 この塔には、魔物のレベルやスキルの研究、その延長として通常の鑑定では把握の難しい人類のレベル設定の定義、随時調整なんかを議論、検討する区画もある。

 僕としてもすごく興味があったので、スキルを鑑定してもらうためにベアトリーチェを誘った。

 けれど、その返答は「嫌じゃ!」の一言だった。

 理由を聞いても答えず、憧れの塔に居るにも関わらず、なんだかそれからのベアトリーチェはずっと機嫌が悪かった。

お読みくださりありがとうございました。

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