寮にて
※※※※※※
「リュシアン!」
寮へ帰ってきた僕は、名を呼ばれて振り返った。どうやら教室棟へ見学へ行っていたニーナ達と、偶然にも合流したようだ。
「みんなも今帰り?」
お祖母様とは、塔を出てすぐに別れた。付き添いをつけられそうになったが、ゾラがいるので大丈夫と答えた。お祖母様に他意はないだろうけれど、護衛……というか、お目付け役を定着させられるのも困る。
「今日はほんの下見程度じゃ。明日は其方も来れるのじゃろ? 何度も説明するのも面倒ゆえ、妾が主催するクラブのことなどはその時に詳しく話すのじゃ」
寮の玄関口で、上履きに履き替えつつ僕は頷いた。
「うーん、そうだね。こっちも手伝いの人選なんかもあるし、少し計画を詰めたほうがいいかもね」
「手伝いの人選じゃと!?」
日程を考慮しつつ、何の気なしに口走った僕の台詞に、ベアトリーチェがびっくりするほどの勢いで食いついて来た。
「え? あ、うん。向こうでも手伝いは用意してくれるようなんだけど、やっぱり気心が知れた仲間がいたほうがいいし、みんなにとってもいい刺激になると思うし……」
「わ、わ、わ……妾はっ!?」
「えーと、ごめん。ベアトリーチェのことは聞いてないんだ。君の専攻や、学年も知らなかったし」
「……そ、それもそうじゃの」
残念そうに肩を落としたが、簡単に諦められないのかさらに詰め寄って来た。
「では、妾の取っている学科や、活動を見て役に立ちそうなら推薦して欲しいのじゃ。役に立たぬと判断したなら、無理強いはせぬのじゃ」
「そう言う事なら、もちろん僕は構わないよ。お祖母様に聞いてみるよ」
全員上履きに履き替えて、食堂への入り口であるロビーで集合したが、ふと人数が増えていることに気が付いた。
背の高いスラッとした少年だった。獣人なのだろう、とんがった大きな三角の耳と、毛並みのよいフサフサの大きなしっぽが見える。どうやら今日からしばらく、寮で一緒に過ごすことになるらしい。
みんなは自己紹介を済ませしているとのことだったので、僕も改めて名乗った。
「リュシアン・オービニュです。せっかくの休暇中なのにすみません」
「いえいえ、どちらにしても休み中もクラブに来るようにと言われていたし、むしろ、寮が使えてラッキーでした。俺は、ジャン・カナリアです」
「クラブ……そう言えば、さっきベアトリーチェもそんなことを言ってたっけ」
補足するように、すぐにニーナが答えてくれた。
「あ、それね。ほら、学園で言うところの自由課題や、フラッグシップクラスの個人研究みたいな感じなの」
「へえ……って、あれ? カナリアって、もしかして」
改めて少年を見ると、昼間に見た女性にどことなく面影が重なる。あのゴージャスな尻尾と、とんがった大きな耳には見覚えがあった。
確かラムネットさん、だったかな。
「母が違うので年は離れていますが、ラムネット・カナリアは僕の姉です」
ジャンは、こう見えてまだ十三歳とのことだ。
これで十三って……!
僕が驚いていると、何となくみんなの視線が集まってくるのが分かった。言いたいことはわかってる。わかってるけど、そっとしておいてね。
昼間、本人にも少し聞いたけれど、ラムネットさんはここの学校を卒業したわけではなく、一足飛びに予備研究員になり、塔へ入ったとのことだ。当時は、それを良く思わない研究員たちとイザコザもあったようだが、彼女はそれを黙らせるほどの機械工学、又はそれを利用した魔道具開発の天才だった。
もともと数百年ほど前に人族の間で少しだけ発達した機械工学、それを古文書やあらゆる遺物……というかガラクタを参考に、独自に復活させたのが彼女だったのだ。
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