凶鳥
「……きょうちょう?」
聞きなれない言葉に、ニーナが首を傾げた。
「まあ、平たく言えば不吉を示す鳥のことじゃ。妾の母がそうじゃと、皆が言うておるのじゃ」
「違いますよ! 真剣に受け取らないでくださいね」
心底どうでも良さそうなベアトリーチェに、少年の方がきっぱりと否定してみせる。
「だいたい王妃殿下は鳥の獣人ですらなく、れっきとした黒羽の魔族ですよ」
鳥人と呼ばれる種族には二通りある。大雑把に分けると、鳥の獣人と、翼を持つ魔族だ。
必ずしもそうではないが、おおよそ白翼が獣人で、黒翼が魔族だ。黒翼には、羽タイプと、コウモリのような飛膜タイプがあり、魔族のほとんどがこの飛膜タイプだ。
そのため、黒羽の魔族はよく獣人と混同されることが多い。
ニーナ達の視線は、ついベアトリーチェの背中の黒い羽に集中した。
縦ロールにセットされたベリー色の髪に、ちょっと小さめの黒い羽がなんとも可愛らしいファッションに見えるが、当然これは正真正銘本物の翼である。
「大体、凶鳥なんてものは人族が勝手にそう言っているだけの迷信で、何の根拠もないただの戯言ですよ」
一般に凶鳥と呼ばれる鳥は、神域や森の奥深くにしか生息しない珍鳥だ。生まれた時は真っ白で、成長すると漆黒に染まり、数年ごとに白く生え変わり、また黒くなる。そんな風に度々羽の色を変えるので、帝国などで、古くから吉兆、凶兆を示す予言に用いられたのだ。
また、黒い羽は呪いにも使われることもあり、多くの黒羽の鳥は凶兆の印とされ、わざわざそれを狩る行事などもあるほどだ。
そのため黒羽の魔族は、今の魔王が保護する数百年前まで、人族により凶鳥と混同されて討伐されたり、怪し気な好事家の収集の対象となり、相当数が狩られたとされている。
「鳥人族は、高い魔力と、なにより飛翔能力を持つ優秀な種族です」
魔族である黒い翼の鳥人はもちろん、魔力を持たぬことの多い獣人も、例外として鳥人、竜人、妖狐、人魚は、魔力に似た異能を持つことで知られている。基本的に他の種族と交わることはなく、独自のコロニーを作っていることが多く、気位が高く、排他的な性格が強い。
元々のスペックは高いものの、情報戦に乏しく近代化が進んでいないことが多く、道具や魔兵器を自在に操る侵略者に、易々と滅ぼされることが多いのも事実だった。
「まあ、妾は飛べぬがな……」
「お、俺も妖狐族だけど、ハーフなんです。だから魔力が極端に少ないんですよ」
ぼそっと、付け加えたベアトリーチェの台詞に、少年は慌てて台詞をかぶせた。獣人や魔族のことにあまり詳しくないニーナやアリスは反応しなかったが、もともとこちらの住人であるカエデは、思わず同情的な視線を送った。
「……そうだ、自己紹介してなかったですね。俺は、ジャン・カナリアです」
すかさずぺこっと頭を下げた少年に、先ほどチラッと聞いた姉のことなども含め、いろいろ聞きそびれていることは満載だったが、彼が名乗ったことで、雰囲気的に順に自己紹介する流れになった。
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