魔王城
魔界、魔王城に住まう魔王。
これだけ聞くと、僕の感覚では闇に蠢く魔物達を束ねる諸悪の根源、みたいな偏ったイメージがある。
実際には、常夏の南の島の、大金持ちの王様だったりしたんだけどね。
かつては、実際に各地を侵攻した魔物や魔族の総大将だったわけだが、約千年前の変革によって、今のような観光と、学問、商売で先を行く大国になったのだ。
僕はまだ会ったことはないけれど、魔界の王、即ちムーアー諸島の王は、僕の祖母の兄、つまり大伯父にあたるらしい。
それで今回、祖母のフルネームから興味を覚え、その時に学園長を通じて手に入れたこちらの書物で、ムーアー諸島の歴史を知ることが出来た。
約千年前、魔王の娘が人間の英雄王と結ばれ、その直系の男子が魔王を継いだ。
それまで血で血を洗う頂上決戦や、奪った領地の大きさで魔王の座を争うこともあったが、それ以降は領地をむやみに広げることをやめたこともあり、統治のノウハウを確実に引き継ぎ、安定した地盤を整えるためにも血統を継ぐ形に変わっていった。
また、頂上決戦が起こるたびに国中が荒れ、敗者が外部へ領地を求めて侵攻するという悪循環が絶たれたので、平和的な国際関係を結べる要因にもなった。
結果的に今の魔王は、英雄王の息子を頂点とした系譜であり、れっきとしたミークーリャ王家である。
皮肉にも、英雄王を始祖としたフォルティア帝国にその直系はおらず、こうして違う土地、魔界に脈々とその血筋が続いたのだった。
そういえば、カエデからもそんなような話を聞いた気がする。
正式な名称としてはミークーリャ王家で、実際に数百年前まではそのように呼称していたのだが、英雄王として神格に近い扱いを受けている初代皇帝の名を、国として名乗ることを数代前の帝国が難色を示し、昔の通称である魔界の王、魔王と再び名乗るようになったというのだ。
と、魔界のウンチクはこんなところにして、僕達は、ほんの数十分の船旅を終えて魔王城へ降り立った。
「……ひゃあああぁ!? なにこれ、寒い!」
船を降りたアリスが、悲鳴を上げて震えあがった。
海はエメラルドグリーンなのに、氷の門をくぐったそこは極寒の地だった。なんでも、地下からの摩訶不思議な魔力によって、この島からまっすぐ上空に抜ける範囲が凍える空間になっている。
僕はフリーバッグから、以前に作った防寒具をみんなに配ると、全員がそれを羽織ってから船を降りた。アリスも慌てて着こんでいる。
大量にあったドロップ品で、使うこともあるだろうと作っておいたコートがこんなところで役に立つとは、ナイスあの時の僕! カエデの分も、ここに来る前に追加注文してあったので、もちろん全員分揃っている。
「モコモコだけど、温かいね」
「ジョゼットさん仕上げだから、デザインもいいね。毛皮なので、どうしてもボリューム出ちゃうけど」
門から城までは、またしても馬車に乗ることになる。歩いてもいけなくはないが、なにしろ寒いし、ごく稀にモンスターも出るとのことだ。
「それはそうと、お祖母様。リンはどうしたの? さっきまで一緒だったのに、船に乗らなかったでしょ?」
「リンは、先に学校の方へ行ってもらったわ。魔王城からは直接転移魔法で学校まで行けるんだけど、今は研究所の中に置いてあるので、先触れとしてね」
「へえ、転移の魔法陣ってダンジョン以外にもあるんだ」
「知識の塔の研究所にあるのは、もともとは大陸から移されたものよ。その昔、魔界の権力者が大陸に侵攻する際に使っていたものらしいわ」
最近、研究材料として知識の塔に請われて、学校側に設置してあった分を貸与したらしい。お祖母様が理事長になる前は、魔王がそれを兼任していたので、魔王城から学校に飛ぶ際に使用していたというが、当面の間は使うことはないだろうから、とのことだ。
今日、ここに来て思ったけど、結構不便な土地だしね。確かに、転移魔法陣があれば便利かも。
やがて広大な庭を経て、魔王城の入り口らしき上へと続く氷の階段が見えてきた。
「……途中で転んだら、最後まで滑り落ちそうだな」
馬車を降りて第一声、エドガーは階段を見上げてため息をついた。それほどの段数ではないが、透明な階段は磨き上げられたようにピカピカと輝いていた。
続いて降りた僕達も、ついつい階段を見上げてしまう。
「やっと来たのじゃ。遅いぞ、リュシアン!」
すると、階段の上からではなく、すぐ横合いからそんな甲高い声が響いた。
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