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冒険者ギルド総本部

 数日間、存分にリフレッシュした僕達は、船と馬車の旅で一昼夜を経て、ムーアー諸島最大の島、ジェレノイア地方の冒険者ギルド総本部にやって来た。

 

「さあ、ついたわよ。まずは、ここで必要な手続きをしましょう」


 最初に馬車を降りたお祖母様が、そこに立つ巨大な建造物を指差した。


「まるで城だな。なんで入口がこんなにでけぇんだよ」

「人も多いな。それに、なんか……」


 飛び降りるように馬車から下りて、建物を見上げたダリルに続き、次に馬車を降りたエドガーが辺りを見回して、すこし尻込みしている。


「……魔族が多いわね、やっぱり」


 と、馬車から顔を出したカエデ。

 角が有ったり、羽が有ったり、耳が尖っていたり、獣人族に多いケモ耳どころか、顔がそのまま獣という人もいた。

 まるで、何かのテーマパークのように賑やかだった。

 ここは冒険者ギルドの総本山、すべての地域の冒険者ギルドを統括する場所である。


「学園の下町ギルドなんか、目じゃねぇな。つか、冒険者めちゃくちゃ多いし」


 見上げすぎて首が痛くなったのか、ダリルが肩をすくめて首を回していた。

 城を見慣れているエドガーやニーナでさえ、珍しそうに壁を触ったりしているし、アリスやカエデなどは言葉もなく見上げていた。


「城というか、要塞だね。あっちの世界には、こんなに背の高い建築物は、塔かお城くらいだったからね」


 僕から見れば、打ちっぱなしコンクリート仕立ての、武骨な鉄筋の建造物を連想した。考えてみれば、こういうビルのような様式の建物に出会ったのは初めてかもしれない。

 全員が馬車を降りるのを待って、お祖母様は簡単に説明した。


「ムーアー諸島には、たくさんのダンジョンがあるの。それこそ、世界最大で凶悪難易度と言われるものから、成長中の未知数のダンジョン、初心者から中級者でも途中までならいける未踏破ダンジョンなんかもあって、世界中から冒険者が集まってくるのよ。だから、冒険者ギルドも大きくて立派だし、この辺一帯はダンジョン都市として特別に栄えてるの。冒険者ギルドが大きいのは、本部ってこともあるけどね」


 なるほど、この辺りに大きな商店や宿屋が多いのも頷ける。先日まで滞在していたリゾート地、ステューム地方にも商業都市があるらしいが、あれは旅行者向けの高級店が多いと聞いた。


「ほらほら、とりあえず中に入ろうよ。行くよ、みんな」


 大通りに並ぶ店舗やギルドの巨大な建物を、いつまでも眺めている僕達にしびれを切らしたのか、呆れたように腰に手を当てたリンがズンズンと建物へ入っていった。

 お祖母様に続いて慌ててその後を追った僕達は、中に入ってまたもや圧倒された。

 村や町の冒険者ギルドとは規模が違う。

 もちろん、雑多なイメージはそのままだが、あえて例えるなら、ごった返した年度末の役所のような活気があった。


「本当はあの行列に並んで処理をしてもらうんだけど、今日だけ特別ね」


 お祖母様は、唇に人差し指をあてて苦笑した。

 人混みでへし合い押し合いになっている行列を横目に、魔界文字でスタッフオンリーと書かれた文字の扉を開けて、僕達をそこへ案内した。


「コーデリア様、お待ちしておりました」


 頭に羊のような巻いたツノがある、ほんわかしたお姉さんだった。制服なのか、先ほど窓口にたくさんいた受付のお姉さんたちと同じ服を着ている。


「忙しいのに悪いわね。今日はよろしく」

「はい、かしこまりました。そちらの方々のカードを、共通で使えるよう処理させて頂きます」


 こちらで活動するために、各自所持している個人カードをこちらでも問題なく使えるように処理してもらうとのことだった。こちらの世界では、紛争地以外ならどの地域でも冒険者ギルドの身分証があれば、よほどの事情がないかぎり問題なく滞在通行できるとのことだ。

 また信用度のようなものが設定されており、使用できる施設や、権限なども決められている。僕達のカードは、お祖母様の権限で魔界の貴族と同等の待遇にしてくれているようだ。見知らぬ土地ゆえのトラブルや、新参者でも学園である程度、自由に動けるようにとの配慮であった。

 また、冒険者ではなかったエドガーやアリスもここで冒険者登録をし、向こうへ戻るときにどこか適当な拠点を上書き入力してくれるとのことだ。

 というわけで、総本部である大きな冒険者ギルド、噂の最難関ダンジョンを始め、たくさんあるダンジョンに後ろ髪をひかれつつも、ここでの用事はほんの二時間ほどで終わり、すぐに移動することになった。

 

「学校があるのはこの島なんだけど、その前にちょっとだけお兄様に会ってね。回り道になっちゃって申し訳ないんだけど、また船に乗るから港へ戻るわね」


 お兄様……軽いノリだけど、魔王様だよね。

 魔王城はジェレノイア地方からほんの目と鼻の先なのだが、普段は船で行くことになる。普段はというのは、一年に数回、潮の関係で地続きになることがあり、歩いてでも渡れるというのだ。

 島と言っても陸続きなので、別の島としての名はなく、そのまま魔王城と言うのがその地の名称らしい。

 前にもカエデにちらっと聞いたが、魔王城は、永久凍土に覆われた氷の城。南国の夏真っ盛りの今も、そこだけは真冬の様相だというのだ。

 けれど、そのギャップが楽しいと好評を呼び、陸地が繋がる期間は、魔王城のすぐ庭先までを開放しており、そこもまた人気の観光スポットだとお祖母様は追加で説明してくれた。

 ――どんだけ、商売上手なの魔王様!?

お読みくださりありがとうございました。

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