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大神殿にて

※※※※※


 魔界、ジェレノイア地方。

 温暖で気温の変化もなく、ムーアー諸島の中でも一番大きな平地を持つ地域。

 全世界の冒険者ギルドの総本部の拠点であり、なによりここは、知識の泉と呼ばれる巨大な塔を中心に抱える学園があることでも、有名な場所である。

 かつて世界を席巻したフォルティア帝国も、今や度重なる内乱に疲弊し、偉大な初代皇帝の威光にも影が落ちる中、ここ数百年で急激に国力を増したのが、この魔界と呼ばれる南のムーアー諸島だった。

 やみくもに領地を広げることを良しとしていた魔族だったが、ただそこにあるものを略取するだけでなく、土地を豊かにし、領民を豊かにすることで利益を得る方法を見出し、いつのまにか大陸でもかなり裕福な国家となった。有名な巨大ダンジョンを運営していることも、追い風となっている。

 また、国防も疎かにすることはなく、もともと過去には各国に恐怖の対象とされていた魔王軍は、いまや種族問わず魔界に住まう国民を守る堅固な盾となっている。また、魔族は冒険者としても上位ランカーが多く、災害級のモンスターの襲来に、救援要請がくることもあるほどだ。

 そして、その帝国と魔界の間に横たわる巨大な密林地帯を脇に、幾つかの大河と湖を越え、人を寄せ付けぬ深い森を越えた場所にあるのが聖地だ。


 水煙を上げるソナ瀑布を背負う、美しい白亜の大神殿が、眩しいばかりの月明かりに浮かび上がっている。

 精巧な彫刻が刻まれた荘厳な門、巨大な柱に支えられた高い天井に、広いホール。

 そこには、エルフの特徴をもつ女性を象った白い像が、天を突くような巨大な姿で立っていた。祈りを捧げるように両手を合わせ、慈愛の微笑みを浮かべ、目を伏せた姿だ。

 白い像の前には、白髪の長い髪を結い上げ、仕立ての良い銀糸の刺繍が施された法衣を身に纏った上品そうな女性が跪いていた。その後方には二人、付き人のような白装束の女性が立っている。

 顔をみると若い女性のようだが、足元には杖があり、結い上げた真っ白な髪は所々ほつれて艶が失われ、なんとなくその様子はやつれているように見える。

 そんな彼女の目の前には、銀色の台座に乗った丸い透明な水晶玉が二つあった。それぞれに、こちらと対面する形で二人の人物が映っている。


「……教皇猊下の考えとしては、次の世界会議にて周知するのだな」

「ええ。でも、私のというより、むしろ陛下の考えではないのかしら? なにしろ、冒険者ギルドと知識の塔の学者を通して、あちらにはすでに根回しをしていらっしゃるのでしょう」


 左側の水晶に映る青年の問いかけに、教皇と呼ばれた白髪の女性が微かに揶揄するように笑って答えたが、それは嫌味というより、気安さからくる軽快なやり取りのようにも見えた。

 全身黒ずくめ、髪も漆黒の男性の上半身が、その水晶には映っていた。厳しそうな眉間のシワとは対照的に、明るい飴のような透き通った金色の切れ長の瞳が印象的だった。

 その中で、いささが居心地が悪そうにしているもう一人の人物。右側の水晶、そこに落ち着きがなくソワソワした様子で、二人のやり取りを聞いていた男が、ここでようやく口を開いた。


「……い、いつの間にそのような話になったのだ。まだ、会議の前であろうに。そ、それに、これはそれほど急いで事を進めなくてはならぬ話でもあるまい」


 茶色の髪に同じ色の瞳、見るからに「人間」の男であったが、平凡そうなその容姿にいささか浮いた感のある華美な衣装をまとっていた。豪華なファーのついたマントが、なんとも借りもののようで滑稽でさえある。


 改めて――、女神像の前に跪いている女性が、ソティナルドゥ教の頂点である教皇猊下で、黒ずくめの青年がムーアー諸島の支配者であり魔王、そして中年太りぎみの人間の男が、大陸の大半を支配する帝国の皇帝であった。 

お読みくださりありがとうございました。

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[一言] 作者様良いお年をお迎えください。(*- -)(*_ _)ペコリ
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