学園長からの申し出
学園では春の行事が一通り終わると、一年間の締め括りとなる夏に向けて、それぞれ学期末への準備は終盤を迎えることになる。
進級するもの。新しい研究に取り組むもの。学園を去る者。みな、それぞれの最後の仕上げに入っていた。
そんな、夏の長期休暇に入る少し前のこと。
僕は、思いもよらず重厚な扉の前に再び立つことになった。
見上げると、そこには「学園長室」との文字が入ったプレート。
「また、ここに来ることになるとは……」
しかも、今回はニーナは同行しておらず、一人きりだ。
ここ最近、学期末で忙しい教養科組のエドガーやダリル、アリスにカエデと、さらに錬金術に熱を入れているニーナが、次のステップに進むために積極的に単位を取っているため、僕は、もっぱら保険医のユアン先生の研究を手伝っていた。
そんな中、彼を通して学園長から招集がかかったのである。
「久しぶりね、リュシアン君」
そう前置きすると、学園長のブリジットは気さくに笑いかけ、机から移動して僕をソファーセットへ誘導した。前はニーナと一緒だったので座ったが、さすがに学園長と一生徒という立場なので、当然ながら断ろうとした。
「ふふふ、話が長くなるから、どうぞ座って」
すると、ちょっとだけ苦笑した学園長が、僕を促すように先に腰かけた。さすがに、ここで座らないのは却って失礼かと思い、勧められるまま向かいあうように座った。すると、すぐに事務職の女性だろうか、ジャストタイミングで湯気の立つお茶を二つ置いて、静かに立ち去った。
どうやら、本当に長い話になるようだ。
「今日は相談があって呼んだのよ。ニーナやカエデさんにも関係がある話なのだけど、まずは混乱を避けるためにも、事前に説明をしておいた方がいいと思ってね」
そう前置きして、学園長は驚くべき話を始めた。
以前から、彼女はあちらの世界を知っている風だったし、それを隠すつもりもないことは明らかだった。すくなくとも僕やニーナに対しては。
ただ、そのことに特に言及することもなかったし、祖母が以前に語っていたこと――こちらにも知る者は少なからずいる――と符号するので、確認しようとはしなかった。
お互いに、あえてスルーしていたのだ。
「何から話そうかしら……そうね、まずは魔界の学園のことね。リュシアン君、留学しましょう!」
それにしたって、切り出し方がいきなりだった。
僕は、思わず口をつけたお茶を吹き出しそうになった。
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