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それから

※※※



 一週間ほどの王都滞在だったが、僕とエドガーは一足早く学園に帰ることになった。僕はともかく、エドガーは通常授業があるし、単位も危なくなるので長居はできなかった。


「私は、お兄様が離宮に移って、少し落ち着くまではこっちにいるわ。リュシアン、本当にありがとう」

「ううん、気にしないで。王様からご褒美もいっぱい貰ったし、それになにより大切な友達が困ってたら、助けるのは当然だよ。ね、エドガー」

「お? おお、まあな……」


 話しを振られたエドガーは、なぜか「お前な……」とちょっと呆れたような顔をして、ニーナも思わず苦笑したものの、黙って頷いた。


「……エドガーも、本当にありがとう」

「いやいや、俺なんか、ただ言われた通りやってただけだからな」


 そんな時、護衛騎士の代表が、そろそろ出発すると知らせに来た。エドガーはその声に従って、さっさと馬車へと乗り込んだ。


「それじゃ、道中気を付けてね。私も、お兄様のお引越しが終わったら、すぐに学園に戻るわ」

「久しぶりの再会なんだから、ゆっくりするといいよ。この手紙は、間違いなく学園長に届けるからさ」


 そう言って、エドガーに続いて馬車に乗り込もうとしたが、後ろから服の裾を掴まれて引き留められた。


「リュシアン!」

「……え?」


 思いっきり引き戻されて、僕がバランスを崩しかけたところをニーナの腕にクルッと回されて、正面からギュッとハグされた。

 相変わらずコンパクトな身体は、彼女の腕一本でいいように弄ばれてしまうが、今日はそれだけではなかった。ちょっとだけ屈んだ状態のニーナが、不意に顔を近づけてきたのだ。

 一瞬、ニーナの頬が摺り寄せられ、次に柔らかいものが僕の頬に触れた。

 ……ん!?


「本当にありがとう! 今回のことは、お父様も私も、お兄様も忘れないわ。リュシアンに何かあったら、すぐに飛んでいく。だって……私にとって、とても大切な人なんだもの!」


 それこそ、起こったことを確かめる間もなかった。なにしろニーナは、すぐにひらりと身体を離して、今度はグイグイ押し出すようにして、僕を無理矢理馬車へと詰め込んだのだから。慌てて振り向くと、その顔は真っ赤になっている。

 護衛騎士に扉を閉められ、背伸びして窓から外を見るとニーナが手を振っていた。


「お前だけ、なんか特別なお見送りだったな」

「い、いやいや、エドガーがさっさと馬車にのっちゃうからだろ」


 そうは言ったものの、ニーナのハグは家族のそれよりもちょっとだけドキドキした。確認はできなかったが、おそらく彼女の唇が当たっただろう頬が、なんとなく熱い気がして、僕はしばらく手のひらで押さえていた。



 

 それから一か月と半月後、ニーナは学園に戻って来た。

 いつのまにか全員の集合場所になっている薬草畑で、久しぶりの再会となった。さっそく女子組で、楽しそうにお土産を渡したり、おしゃべりに花を咲かせたりしている。

 僕とエドガーには、お土産とともに厄介ごとを持ってきた。


「チョビとペシュにもお土産がこれ、それと二人にはこっちもオマケね」

「ありがとう……で、これはなに?」

「俺にも?」


 アンソニー王子の静養先で手に入れた茶葉や、民芸品みたいな飾り、それとチョビ達に果物、そして最後に綺麗な透かし模様の入った高価そうな封筒を渡された。

 それにはドリスタン王国の割り印がある。

 うん、嫌な予感しかない。


「王宮で、本格的な私のお披露目があるの。前のは、身内のものだったけど、これは正式な物よ」


 各国の王族やらが集まる、いわゆるすごいやつだ。前回のパーティは、半分はエイブラハム公爵とアンソニー王子のことを相談する機会を作るためでもあった。前にバートンが言っていたニーナの社交界デビューは、この正式な王城でのお披露目を指していたのだ。


「もちろん、リュシアン達はモンフォール国王の代理としての招待よ。事前にモンフォールの国王陛下には許可を頂いてるわ」


 さすがに王太子のお披露目というわけではないので、他の王国、公国にしてもトップが来ることはほとんどないとのことだ。


「今回もアリスたちはお誘い出来ないけれど、パーティに来てくださる各国のお客様からは、きっと珍しい頂きものをするから、終わったらここでまたみんなで集まりましょう」

「わー、楽しみ。むしろ、私はそっちの方が気楽でいいわよ、ね、カエデ」

「そうそう、私なんてアリスの家でも目を回しそうだったのに、お城に行ったら倒れちゃうわ」


 いやいや、アリスの家は普通じゃないからね。むしろ、貴族の家よりずっとスゴイから。

 一方、ダリルは最初から興味なさそうにノルに餌を上げている。

 ついでにチョビにも分けてくれている。ダリルはとても器用で、魔獣が好む特別なフードを作るのが得意だ。総合栄養食とでもいうのか、もちろん普通の食べ物もあげてはいるが、これはなかなか画期的な試みである。

 ペットフードのように、一粒で二度も三度も美味しい仕様だ。もちろん種族によって変えているようで、なんとチョビ用とペシュ用も用意してくれているのだ。

 最近、ようやくチョビもダリルを許したようで、ちょっとづつ近づくようになった。ダリルは、顔にこそ出さないが、内心デレデレになっているのは誰の目にも明らかだ。

 ペシュは相変わらず引っ込み思案だが、ダリルはいつかは絶対懐かせる気まんまんである。どんだけ従魔が好きなんだよ。


 というわけで数日後、僕はもう一度モンフォールの王子バージョンに変身することになった。もう二度とやらないと思ってたのに、これがまたドリスタン国王に大ウケだった。なにしろ、王様は僕の本当の姿を知ってるわけで、この姿を変える魔法に興味深々だったのである。

 そしてエドガーやダリルと同様、この魔法が、僕自身にしか使えないと告げると、まったく同じリアクションをして、ガッカリと肩を落とした。だから、この魔法で何に変身するつもりなんだ。

 そのパーティでは、なんとバートンにも再会した。

 最近、学園で会わないと思ったら、やっぱり中途退学したとのことだった。しばらくは領地に籠り、領地運営の基礎からなにから叩き込まれているようだ。

 前にパーティに参加した時は、女の子をたくさん引き連れて、伊達男全開だったのに、今回は一人ぼっちで取り巻きさえいなくなっていた。

 しかも、なんだかげっそりやつれて、ひと回り萎んだというか、なんだか人が変わったようになっていた。ニーナの話によると、デキる部下たちにある意味操り人形のように働かされ、鼻血も出ない程に絞り上げられているらしい。

 今後、王家に吸収されるにしろ、部下たちにいいようにされるにしろ、キンバリー家の力は徐々に失われる運命なのかもしれない。

 すべては自業自得なんだろうけれど、哀愁を背負いよろよろを立ち去る背中を見ると、ちょっとだけ気の毒に思えてしまった。

お読みくださりありがとうございました。

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