涙の石
ダンジョン外のワープ地点は、入口から少し離れた岩場の陰にあった。
「じゃあ、これを正規のワープ陣近くに設置すればいいんだな」
「ペシュを一緒につれて行ってください。僕達が準備出来たらペシュが合図しますので、そちらも大丈夫でしたら巻物を開いてください」
先ほどから、ちょこちょこダンジョンに入る冒険者たちがこのワープを使っている。なので、ジュドさんを見送ったら僕達はちょっと離れた地点から、五十階層に飛ぼうということになった。
そうして僕達は、数分後には問題なく五十階に到達していた。
「こりゃたまげたな。半信半疑だったが、本当にここまで飛んで来ちまうなんて」
僕達が次々と魔法陣から現れたのを見て、ジュドは心底驚いたように目を白黒させていた。
「……内緒ですよ。僕も、こんなのは本来ズルだって思ってますし」
「はあ!? ズルじゃねーだろ、こりゃ自分の能力で得た結果じゃねーかよ」
ジュド曰く、ワープの魔法陣が描けるのも、それを有効活用したのも、ましてやジュド本人と縁があったのも、全て僕が持ちえた、能力であり、運であり、それらすべてはその人自身の力だ、と。
すべてにおいて自らの身体と能力でのし上がる、彼ら冒険者らしいセリフと言えばそうかもしれない。
「そうだよね、リュシアンってちょっと遠慮しすぎっていうか、謙虚が過ぎるっていうか……んーと、なんかそういうとこあるよね」
「あー、それな。俺なんか、ときどきマジ腹立つし……」
独り言のように呟いたカエデに、勢いよく続いたのはダリルだ。
ダリルの場合は、半ば八つ当たりである。僕らの学園での今の活動は、あまり目に見えて派手なものではないし、最近では薬草畑の端っこでコソコソ引きこもっている。どうやら、それを面白がって揶揄われたり、バカにされたりしたらしい。
まあ、以前はダリルが先頭に立って僕に絡んで来たんだけどね。
僕らメンバーは、あらためて五十階のワープ陣から一度入り口に飛び、再び五十階に戻って来た。これで正式に行き来が可能になったわけだ。
その後、ジュドの案内で涙の石の場所まで案内してもらった。
「うわ、このへんすごい濡れてる。滑らないように気を付けて……、わっ」
カエデがお約束で転びそうになっているが、本当に雨が降ったかのように足元が濡れている。
「涙の石は、鉱石自体に水が発生している訳じゃないんだって。その鉱石に潜む目に見えない程小さな生物が排出する液体だと言われているんだよ」
だから、いつも同じ場所に存在せず絶えず移動している。もっとも、これは研究者がたぶんそうだろうと推測しているだけで、本当にそうだと立証されたわけではないようだ。
また、採掘してしまうとソレが逃げ出してしまうのか、数分後には乾いてしまうので、雫の採取は時間との勝負である。前にも使った遮光瓶を用意して、ニーナ達に採掘作業を進めてもらった。一つの鉱石から数滴が限界なため、順に瓶の中に垂らしていく。
ようやく瓶の半分ほど溜まったところで、もう一瓶分採取した。
二時間ほどかけて採取を終え、僕は改めてお礼を言った。
「ジュドさん、本当にお世話になりました。それに、ヘルサラマンダー討伐を譲ってくれてありがとうございます。あの、よかったらこれ、サラマンダーの素材を頂く代わりに、どうぞ」
ジュドの大きな手の平に、僕は小さなガラス瓶を乗せた。
「いや、俺たちゃもともと素材は諦めたんだし、構わないけどな……って、これ、さっきの?」
「その瓶なら、ほぼ採取したままの状態を数時間保てます。あ、もちろんすぐにフリーバックに入れたほうがいいので、そうしてください」
「……ほんとかよ、鮮度が良ければそりゃ喜ばれるけど、いいのかよ?」
「ジュドさんには、感謝してもしきれないですから。遠慮なくどうぞ」
そうして、ジュドは地上へと戻っていった。さらに今日一日は、僕らに場所を譲るということで、パーティ全員で休養日にしてくれたそうだ。
段取りは整った。
ついに次は、階層ボス、ヘルサラマンダー討伐である。
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