秘薬2
「あのダンジョン、もう探索できるようになったのね」
「僕も知らなかったんだけど、ユアン先生はあちこちにアンテナ立ててるらしいね」
レシピの素材を全部揃えるのは無理だとわかっていても、ユアンは高祖母の秘伝のレシピの研究を完全に諦めることが出来なかったのだろう。わかる範囲で、集められる素材はコツコツと手に入れ、同時に情報集めや、地道な調査などもしていたようだ。
「ダンジョンが解放されて二か月くらいだけど、既に五十階のワープ陣に到達したパーティがいるらしい。ユアン先生が引き続き調査してくれるって」
どちらにしろダンジョンは未踏破だし、普通なら、僕らのようなFクラスの冒険者が単独でホイホイ参加できるレベルのダンジョンではない。なにしろ僕らが行きたいのは、五十階以降の階層なのだ。
「それで学園長のお墨付きみたいなものが欲しいのね?」
「それと、五十階層のワープ陣のマーカーを持っているパーティを、仲介してくれる人を紹介して欲しいんだ」
「あら? 今回は依頼するの?」
「……そうだね、まだ決めてはないけど、どちらにしても話は聞きたいし」
フリーバックから小さな巾着袋のようなものを取り出して、テーブルの上に乗せた。形は小さいが、これもフリーバックである。
「これはユアン先生が、いままで集めてきた素材が入っている」
惜しげもなくこれら素材や、今まで集めた情報を提供してくれた。もしかしたら、ユアン先生も出口の見えない研究の、何かしらの突破口のようなものをずっと求めていたのかもしれない。
提供された素材の中には、かなり希少なもの、時期特定なものなど、揃えるのには数年を要するものさえあった。
さすがに僕は恐縮したが、なにしろ第一の目的は人の命に関わることである。得られるチャンスは、一つも逃すわけにはいかなかった。
「レシピの内容は詳しく言えないけど、必要素材には、例えばソティナ草など、こちらでは採取不可能だけど、僕が所有していた材料もいくつかあった。絵空事に思えた話が急に現実味を帯びたこともあって、ユアン先生は積極的に協力してくれることになったんだ」
調査、実験、研究など製作過程にユアンが参加することは、ニーナにも了解を取った。なにしろ重要なソース提供者なのだ、彼を蔑ろにするわけにはいかない。
「じゃあ、ほとんどの材料は揃っているのね?」
「うん、あとはそのメモにある材料と、大量の魔水だけだよ」
「……魔水? って、インクを作る時に使う錬金水?」
「やっぱりそう思うよね。ユアン先生も、これがネックだって言ってたくらいとんでもない量なんだけど、これって生活魔法でも同じ物が出来るんだよ」
僕がそう言うと、ニーナは目をぱちぱちと瞬いて「え!?」と素っ頓狂な声を上げた。まさに、目からウロコという顔をしている。
「……ま、まさか、いつもサブザブ遠慮なく使ってたアレ?」
「うん、ソレ」
時にお茶を入れたり、時に顔を洗ったり、文字通りじゃぶじゃぶ使っていた魔法で作った飲料水。あまりに身近過ぎて気にも留めてなかったが、この魔法を使える人物は少なくとも学園内ではただ一人、エドガーのみである。
手間とスキルと魔力を費やし錬金術で作る魔水は、エルフの作る魔水をヒントに作られたのではないかと、リュシアンはかなり以前に調べたことがあった。
「……それで、エドガーを?」
「巻物を使えば僕にも作れるけど、それに手一杯になるわけにはいかないからね」
ニーナは事の次第がわかるにしたがって、みるみる膨らむ期待に顔を輝かせている。沈みがちだったニーナの表情が明るいのは嬉しいけれど、僕にしてみれば少し複雑でもあった。
これだけ手を掛けて、人を動かして、もし見当はずれの薬だったら、という不安がないわけではない。でも、今のところ他には何の手掛かりもない状態だから突き進むしかない。
そもそも、材料さえも揃っていない今から余計な心配をしても仕方がないのだ。
「とにかく、やれることをやろう」
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