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ユアン先生

※※※


 午前中、魔法陣の研究室が満室だったので、前から誘われていたユアン先生の研究室へと向かった。

 ちなみにフラッグシップの中にもランクはあって、まだ特に成果を上げていない僕は、専用で使える研究室は持っていない。シェアハウスのように、ロッカーや資料を仕舞えるチームごとの個室を完備した、数チームが共同で使うタイプのものだ。

 薬剤師育成の方は、畑の横の小屋を使い勝手のいいように改良、増築(ちゃんと許可は取った)したので研究室は申請しなかった。

 生徒用の研究棟を出て数分、少し外れにあるログハウスのような建物が見えてきた。木製の扉を軽く叩き、声を掛ける。


「こんにちは、リュシアンです。ユアン先生いらっしゃいますか」


 いつもは手伝いの生徒が数人いるのだが、今日は誰も出てこなかった。約束をせずに来てしまったので、もしかして保健室の方にいるのかもしれない。


「仕方がない、出直すか……」

「おや、リュシアンではありませんか。今日は来る日でしたか?」


 諦めて帰ろうとしたところで、後ろから声を掛けられた。


「論文が一つ上がったので、説明やら次の予定やらを相談へ行ってたんだよ」


 出資者や共同研究者との打ち合わせといったところかな。昨日のうちに研究室の掃除などを済ませ、助手の学生にも数日間の暇を出したらしい。それで誰も居なかったというわけだ。

 僕はまだよく知らないけれど、こちらの世界にもいろいろ学会のようなものがあり、そのうちの一つに所属している彼は数年に一度、研究結果を報告しなければならないのだ。

 我がモンフォール王国は、魔法において他を圧倒するけれど、こと薬師学会の所有する知識や成果など、ドリスタン王国にはとても太刀打ちできないのだという。


「で、どうしたの? いつもはあんなに誘っても来ないのに」

「すみません、こちらが用事があるときばかり」

「いいさ、学生は学生同士、やりたいこともいっぱいあるだろうしね。たまにでも思い出して貰えてうれしいよ。キミの話は、何時も面白いからね」


 図星をつかれて僕が恐縮すると、ユアン先生は手を振って笑い飛ばした。羽もバサバサ動いている。


「……実は、前にちらっと聞いた薬のことで、もう少し詳しく聞きたくて」

「ん? 前に……どれのことだろう」


 ユアンは僕を椅子に座らせると、戸棚に手を伸ばし、お茶の缶を取りつつ首を傾げている。薬品などを煮沸する時に使うアルコールランプのようなもので、お湯を沸かし始めた。


「……先生が生涯をかけて研究してみたいと言っていた、例の」

「え? いや、あれは薬っていうか、お祖父さんの夢物語というか、まあ、それでも孫として解き明かしたいと思っただけで……」


 僕の台詞でようやく思い当たったのか、驚いたように目を丸くして、すぐに苦笑して小さく首を振った。その手は、よどみなくお茶の準備を進めている。


「わかってます! それでも詳しくお話を聞きたくて……っ」


 いきなり立ち上がった僕に、ユアンは思わず缶を傾け過ぎて「わっ、入れ過ぎた」と、あたふたした。


「す、すみません」

「大丈夫ですよ、お茶はちょっと濃いめですが……さて」


 座りなおした僕に、ユアン先生は見るからに濃いお茶二つ、をテーブルに置いた。


「話を聞きましょうか」

お読みくださりありがとうございました。

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