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薬草

「こんなちゃちな草がそんなに珍しいのか? ただの野花じゃねーか」

「なんてこと言うの! ソティナ草は、それこそ薬剤師垂涎……いいえ、聞くところによると皇都のお偉い学者様が取り合いするってくらいの代物よ」


 続いてやってきたダリルが、カエデの上からハウスの中を覗き込むようにして、振り向いた彼女にすぐさま反論されて後退っていた。なんかダリルってカエデに弱いよね。チョビにも弱いけど……。


「そんなに? じゃあ、結構な値段するわよね」


 いつの間に小屋に来ていたのか、すっかり体操着に着替えた麦わら帽子姿のアリスが、商人の顔をのぞかせて話に加わった。


「値段は、あってないようなものね。群生地は立ち入り禁止なんだけど、そこの解放日に採取するのは基本的に無料なのよ。でも、場所が場所なのでそこへ行くだけでも諸々かなりの諸経費がかかるし、流通するほど量に余裕があるわけじゃないから、市場に出るとしたらトンデモない値段になるわね。さっきも言ったみたいに、教会や研究所が取り合いするほどだし、どのみち市井に出回ることはほとんどないわ」


 栽培の研究はされているんだろうけど、確かにこれだけ手を掛けても成功するかどうかでは、現実的には量産化は難しいかもしれない。

 僕は服に付いた土を払いながら立ち上がり、ニーナにも手を差し伸べた。草むしりをする格好で、小さくなって座っていたのでちょっとだけ身体が痛かった。

 無意識ながら、かなり身体を縮めて話し込んでいたようだ。


「それに、これはマナ草ね。あら? こっちの端には色違いのべス草まであるわ。リュシアンって、農業の才能あるわね」

「……薬草の研究って言ってよ。そのべス草はこっちに撒いた種が混じっていたらしくて、たまたまそこで育っちゃったんだよ。ソティナ草のために噴霧してる魔水の影響なのか、ちょっと育ちもいいし、なんだか変わった変化をしてるんだよね」


 べス草はもともと、周りの環境によって効果を加えたり、変えたりする薬草で、水辺さえあればどこにでも自生する基本の薬草だ。薬草の毒性を抑えたり、また効果が喧嘩する複数の薬草の親和性を深めたりするオールマイティの役割をする。

 そして最大の特徴は、その変化によっては希少種に変化する薬草でもあるということだ。それだけに、いくら研究しても尽きない程、研究し甲斐のある素材なのである。

 加えて、特殊栽培のソティナ草やマナ草のおかげで、他の薬草にもいろいろ変化が出たりして、研究としては面白くなってきたところだった。


「リュシアンは、最近こっちばっかりね。魔法陣研究のほうは行ってないの?」


 ついつい聞かれてもいないウンチクを傾け始めた僕に、アリスがちょっと残念そうに聞いて来た。

 彼女には魔法属性はないけれど、少しばかり魔力はある。そのため、僕が立ちあげた魔法陣研究の小さな研究室に、ニーナやカエデと一緒に助手として活動しているのだ。


「ごめんね、アリス。でも今季だけは、ちょっとこっちに集中させてね」

「あっ、いいのよ。リュシアンの邪魔するつもりないし、私だって薬草の研究は面白いと思ってるのよ」


 正直なところ、今は回復薬や解毒薬の上位錬成の為の畑仕事と、そのための研究を優先している。アリスだけじゃなく、研究棟の先輩であるエイミにも先日、チクチクと嫌味を言わてしまった。確かに、かなり放ったらかしにもなってるし、彼女の研究室への招集もここのところ断ってしまっている。

 申し訳ないけれど、この二つの特別な薬草を採取して保存処理をするまでは、ちょっと気が抜けないのだ。

お読みくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 命助けてもらった相手によく嫌味言えるな!笑 実力とかでもかけ離れてるんだから先輩だからってなんか言える立場じゃない気がするけど‼︎笑 主人公ブチギレシーンとか見たいです!
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