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幕間ー談話ー

 王族貴族などというものは、政略結婚が当たり前でどこかで繋がっていることは珍しくない。

 エドガーの母親イザベラの母国クレイセンクールは北の果て僻地の王国で、貴重な鉱石、玉が名産で、更に毛皮の流通でもかなりの利益を上げている。

 だが、如何せん土地の痩せた北国。生死に直接かかわる食料品が自給できない。

 いくら宝石がたくさんあっても、食べられなければどうにもならない。それを、お金に、食料品にかえないと意味はないのだ。そこで多くの国との取引を円滑にするため、また強固にするために選んだ方法が婚姻による国同士の結びつきである。

 クレイセンクールの特産は、宝石と毛皮と嫁だと揶揄される所以である。


「……エドガーだ。こっちは弟のリュシアン、よろしく」


 王族にしてはずいぶん粗末な挨拶だったが、エドガーはあえてミドルネームを名乗らなかった。たぶんそれを話のタネにされるのを嫌って、そこはスルーするという意図を暗に示したのだろう。

 あまりにあきらさまな態度に、僕なんかは無駄にひやひやしたが、バートンは軽く片眉を上げただけで、それについてはあえて触れなかった。この様子からすると、その辺の事情はもちろん把握済みで、それを繋ぎに親しく話題を持って行きたかったに違いない。


「エドガー殿下、学園ではまだお会いしたことはありませんが、同じ学び舎で勉学に励む仲間同士、是非これからは親交を深めていければと存じます」


 学校ではずいぶんな態度を取られた気がするが、友好国の王子様相手だとこうなるわけか。なるほど、なかなか強かな御仁のようである。もっとも、それに頷きもせず睥睨するエドガーも大概であるが、どうやら学園で僕がその辺の塵芥のように扱われたのをニーナに聞かされたらしく、かなり怒っているらしい。


「ところで、そちらのリュシアン殿下にはどこかでお会いしたような……」

「気のせいだろ? 俺だって、久しぶりに会ったんだからな」


 無言のままの僕に、バートンは興味を持ったのか話しかけてこようとしたが、即座にエドガーによって躱された。僕も、あえて進んでしゃしゃり出ることはしない。学園での姿と今とでは確かにかなり違うけれど、主に背丈が……、とはいえ髪の色や面差しは変わらないのだ。あまり突っ込んだ話をすると、何かしらおかしいと思われて目を付けられるのも面倒くさい。

 僕が乗ってこないので、バートンもすぐに諦めて話を変えた。


「ニーナ姫、ところでお兄上はどうされましたか? 妹君の晴れの舞台だというのに、今日は参加しておられないのですか」

「……お兄様はお見えにならないわ。ご存じでしょう、こういう場所は得意でいらっしゃらないのよ」


 それほど残念でもなさそうに肩を竦めたニーナに、僕はちょっと違和感を覚えた。普段の彼女は、父である王や、前にチラリと聞いた弟のこと、そして兄と慕うエルマン王子のことを話す時は、それこそ不満をもらす時でさえ愛おしさをにじませる。家族に対しては、少なからぬ親愛の情を示すのが常なのだ。

 それなのに、どこか興味のなさそうなその態度が、彼女らしくないと思ったのである。


「殿下にも困ったものですね。可愛い妹姫のお披露目パーティだというのに」


 そして、極めつきはバートンである。

 このセリフも大概失礼な気がするけれど、ニーナが少し顔を反らした隙に、小さく何事か呟いて忌々しそうに舌打ちしたのである。

 声にこそ出さなかったが、見間違え出なければ「あの役立たずが……」と動いたように思えて、僕はびっくりして顔を上げてしまった。思わずバートンと目が合ってしまい、僕もしまったと思ったが相手はもっとバツが悪そうだった。


「さて、ニーナ姫。曲が変わりそうですよ、もう一曲……」


 ごまかすためだろうか、バートンはニーナにもう一曲ダンスを申し込もうと、手を差し伸べた。気持ちはわかるけど、ニーナ……その顔はまずいよ。

 すぐに助け舟を出そうとしたが、そこはエドガー王子様の出番であった。


「バートン殿、ここは譲ってもらおう。ニーナ姫、どうか私とも踊ってもらえますか」

「もちろんですわエドガー王子、喜んで」


 うって変わって笑顔になったニーナは、僕の方にも花が咲くような笑顔で頷いてから、嬉しそうにエドガーの手を取った。二人は曲の出だしに合うように、二人で仲良く会場の中央辺りまで歩いて行った。

 いやいや、よかった。ナイスエドガー。 

 でもね、たぶん今一番問題なのは残された僕だよね。ちらりとバートンを見ると、表面的には薄く笑みを浮かべたままで二人を見送っていた。


「……どうやら、お互いあぶれてしまったようですね。殿下とは、どこかでお会いしたような気がしたのですが、どうやら私の勘違いのようです」


 だが、バートンは先ほどのことをとやかく突っ込まれたくなかったのか、何を言うでもなく流れるようにお辞儀をして、そそくさと立ち去っていった。

 ほっとしたような、すっきりしないような……なんだか微妙な気持ちで、僕は人波に消えていくバートンの後ろ姿を眺めることになった。

お読みくださりありがとうございました。

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