エドガーの提案
「そういえば、僕には招待状が来ててないんだけど」
「いいのよ、リュシアンは私のパートナーとして行くんだから」
往生際の悪い僕に、ニーナは問題なしと一刀両断である。
人並み以上に踊れるとわかった僕に、もう逃げ道はなかった。想定以上のステップを踏めると知ったウォルターは、メインで流れるだろうダンス数曲分の、男女腕の組み方を次々アレンジしていった。
近頃の執事は、ダンスのアレンジもお手の物なんだろうか。
「でも、やっぱりさニーナ。エドガーの方がいいと思うんだよ。これじゃあ、まるでニーナにエスコートされてるみたいだし」
「……リュシアンが嫌がることもわかってたんだけど」
どこか申し訳なさげなニーナは、どうやら僕が恥ずかしいから嫌がっていると思っているようだ。もちろんそれもゼロじゃないけど……僕だって男だし、ダンスを踊るならきちんと男性パートがいいに決まってる。
だけど、そんなことは実はそんなに問題じゃない。
「ニーナと踊るのは、僕は別に嫌じゃないよ。ただ、あのバートンもパーティに来るんだよね?」
そう、これはニーナの為のパーティ。彼女にちょっとでも不愉快な思いはさせたくないのだ。
バートンは、彼女の相手が僕であることを認めないだろう。
ドリスタン王国で、王女とはいえニーナの王位継承権はかなり高い。僕も最近まで知らなったけれど、母親の身分が高いからだと聞いた。だから――。
「パートナーとして、僕の身分が釣り合わないんだよ」
それこそ、身長の話だけじゃなくてね。
ニーナは、バートンには言わせておけばいいと言っているが、せっかくパーティを主催してくれている公爵閣下にも、これが原因で変な騒ぎになっては申し訳が立たない。
ダンスも一区切りついたこともあって、ちょうどいいからとそのまま休憩を取ることにした。教師役のウォルターは気を利かせたのかホールを出ていった。
「それならリュシアン、普通にモンフォール王国の王子として出席すりゃいいじゃねーか。もう隠す必要もないし、もともと国外では第四王子は普通に健在だとされているんだし」
「……え!?」
僕達がパートごとの振り付けを教わっている間、ずっとアリスと踊っていたエドガーは、タオルで汗を拭きながら戻って来て、僕達の会話に事もなげにそんな爆弾を落とした。
それには僕はもちろん、ニーナもアリスもすっかり忘れてた、という顔である。
「え、……は!? 王子って、なんだそりゃ。お前が何って?」
今日はもっぱら見学組のダリルとカエデは、会話まですっかり蚊帳の外のようで、衝撃の展開に目を白黒させている。
あれ、この二人って知らなかったっけ?
「リュシアンって王子様なの? ああ、でもコーデリア様の孫なんだから、んーと魔王様の姪孫ってことで、あっちでも王子様? あれ、王様の妹の孫は王子様とは言わないんだっけ」
そして、カエデは余計なことに気が付いてさらに混乱材料を投げ込んで来た。
ニーナやアリスまで「ホントだ、気が付かなかった」と、ばかりにいきなりそちらに意識が向いてしまった。
――って、問題はそこじゃないでしょ。
「それより、エドガー。その意見は却下だよ」
「なんでだよ?」
「だってバートンとは、伯爵家三男ってことで顔合わせしちゃってるんだよ」
「ああ、そうか……私、紹介しちゃったわね」
どちらにしても、情報でしか伝わってないモンフォールの第四王子は、少なくともエドガーの少し下、という容姿のはずだ。僕の姿ではどう見ても年齢が合わない、身分詐称と言われても仕方がないのだ。
「それなら、何とかなるかもしれないわよ?」
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