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ステップの秘密

 というわけで、さっそく僕達のにわかダンス教室が始まった。

  

「何でもソツなくこなす癖に、本当にいわゆる貴族らしいことが苦手なのね」


 すっかり及び腰になっている僕に、ニーナがちょっと揶揄いまじりに微笑んでいる。

 ソツなくこなす、という大部分の要因が前世の記憶ありきなわけだけど、当然ながら前世の僕はダンスなんか踊ったことがない。そして、貴族として生きる今でも出来るだけ逃げてきた分野なのだ。

 なにしろ、社交界でブイブイいわせる気などこれっぽっちもなかった。僕の目標は当初から、家を出て冒険者になると、その一点にのみ向いていた。もっとも、そう決めた大前提が今はもうないわけだが、目標はなにも変わってないのだ。


「――負け惜しみじゃないよ、本当にそうだから」

「なに一人でブツブツ言ってるの? ほら、こっちにきて私の手を取って」


 僕は、ニーナの声に仕方がなく差し出された手を取った。

 あらためて周りを見回すと、エドガーとアリスが器用にステップを踏み、ダリルの驚きとカエデの感嘆を誘っていた。

 ちなみに、まったくの素人のダリルとカエデは見学である。


「あれ……?」

「どうしたのよ、リュシアン」


 お手本というか、基本のステップの見本としてエドガー達の足運びを見ていた僕は、ふと既視感に襲われた。

 なんだろう、見たことがある……というか、これ知っている?


「ちょっと動いていい?」

「……え、あ、ちょ……リュシアン?」


 身長のせいで腕の位置がおかしいけれど、エドガー達の動きと流れる曲に合わせるように、僕は身体に叩きこまれたステップを、素早く、時には滑らかに踏んでいった。


「……リュシアン様、非常に結構です。初心者だとお聞きしたのに、驚きました。足さばきは、まったく問題ありませんよ」


 ひとつのターンが終わった時、教師役のウォルターが感心したように手を叩いていた。

 いや、もう。一番驚いたのは僕だ。だって、これって……。


「なによ、リュシアン。踊れるじゃないの……っていうか、私より上手だったわよ」

「……騙された」


 思わず漏れた僕の声に、ニーナが首をかしげる。

 このステップは、ダンスとして習ったわけじゃない。だけど、当時の僕は必死になって覚えたのだ。

 なにしろ、普段あまり武道指南してくれなかったロランが、珍しくマンツーマンで教えてくれたものだったからだ。確か、短剣術の秘儀だとか何とかいって、珍しく熱心に教えてくれて、すごく嬉しかったのを覚えている。


「よもやこんな仕掛けが……」


 おそらくロランは、母親にでも泣きつかれたのだろう。

 僕がまったくダンスや社交界に興味を持たなかったから。貴族の中で生きていくのに、いつか必要になるかもしれないとの親心だったんだろう。

 まったく気が付かなかった僕も僕だが……、いやだってダンスなんかしたことないし! 生まれてこのかた、というか、それこそ生まれる前でさえだけど。

お読みくださりありがとうございました。

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