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冒険者への道2

「正直に申し上げましょう。今の段階では、姫様の冒険者への登録は出来かねます」


 いかにも冒険者でした、と言わんばかりの体格のいい初老の男性が、部屋に入るなりそう切り出した。

 顔は厳ついのに、汗を拭き拭き、どろもどろになりながらの登場だった。名はザック、若い頃は二つ名持ちの冒険者で、A級まであと一歩というそれなりの凄腕だったらしい。

 ニーナが騒ぎを起こした後、もちろんそれは国中のギルドマスターの間で話題に上がったらしい。なにしろ、彼の人物はドリスタン王国王女と名乗り、さらに冒険者になりたいと言っていたからである。

 提出された珍品は確かに貴重な物が多く、それはそれで物議をかもしたが、それは添え物でしかなかったのだ。ニーナが、鑑定品への興味を反らすために投げたカードこそが問題だったというわけだ。


「……あのときは、良い手だと思ったのよ」


 のちにニーナは唇を尖らせて拗ねたが、僕もそこまで問題視されるとは思っていなかった。僕の常識は、前世の記憶と、生家での田舎貴族の生活で培われている。それこそ、ウチより田舎の貴族だった母の生家など、収穫祭付近になると領民と農作業するくらいゆるい気質である。

 国による身分制度の格差もあるだろうけど、僕の家族の周辺が特にそうだったともいえる。


「……それは、ここのギルドでは無理ということかしら?」


 学園都市のギルドがダメなら、拠点としては遠くても、他の地域で登録する手もあると、そんなニーナの思惑を打ち砕くようにギルドマスターは首を振った。


「少なくとも、ドリスタン王国に所属する冒険者ギルドでは無理ではないかと……」

「なによ、まさか父……陛下がなにか」

「い、いいえ! そのような……まさか」


 慌てて首を振るザックは、さっきまで汗を拭いていたのに今度は真っ青になっている。これは、どっちだろうか? 滅相もない、という意味か、嘘をついているから慌てているのか。


「……そうよね、お父様は学園にいる間は好きにしていいと言っていたもの。それはないわね」


 ニーナの呟きからすると、どうやらザックの嘘ではないようだが、あの慌てぶりからするとまんざらニーナの読みも外れではなさそうだ。即ち、どこかから圧力がかかっている、ということだ。


「ニーナ、慌てることはないよ」

「リュシアン?」


 ザックを問い詰めたところで何も言わないだろうし、しらを切られればおしまいだ。少なくとも、国内の冒険者ギルドにすべて手を回せるだけの人物が動いているのなら、僕達がここで押し問答しても仕方がないのである。


「僕やダリル、カエデは冒険者なんだからクエは受けられるし、その僕達がニーナを雇うという手もある」


 もちろんランクは上がらないし、あくまで僕達からの給料のみの収入だが、それでもクエストを一緒に熟すことはできる。冒険者といっても、学生の間は、授業の一環という面も強く、それほど高ランクなものを受けたりはしないものだ。研究材料の調達ついでの薬草採集、武闘訓練込みの低ランクモンスター討伐などなど、あくまで学園生活ありきの活動である。


「でも……」

「ねえ、ニーナ。とんぼ返りになっちゃうけど、冬の短い休暇に、国境の港町に遊びに行こうよ」


 とっさに不満そうに口を開いたニーナに、僕はそっと顔を寄せて小声でそう言った。


「リュシアン……?」


 一瞬、キョトンとした彼女だったが、すぐに僕の言いたいことに気が付いたのか、もう一度「リュシアン!」と名前を呼んで目を輝かせた。

 そう、以前立ち寄った港町で出会った元ドリスタンの女性騎士、リナ・ブリュレ。

 交易が盛んな港町の冒険者ギルドのギルドマスターである。彼女とは面識があり、僕も知らない王家の情報もいろいろと知っている様子だった。

 もちろん端っこの港町とえ、ドリスタン王国には変わりがないので状況は同じかもしれない。けれど、そうなったらなったでそのままモンフォールへと渡ってしまえばいいのだ。冒険者への登録自体は、少し足を伸ばしてオービニュ領にまでいけば、ジーンが何とかしてくれるだろう。

 確かに王女が冒険者になることについては、学園の外では異常なのことなのかもしれない。けれど、郷に入っては郷に従えではないが、ニーナは一学生として普通に学園生活を送っているだけなのだ。

 誰かにとやかく言われる筋合いはない、というやつである。


「まあ……誰の仕業かは想像つくけどね」

お読みくださりありがとうございました。

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