冒険者への道
翌日、寮の入り口で待ち合わせをした。
つい先ほどまで、授業へ向かう学生たちでごった返していた寮の玄関も、今はシンと静まり返っている。人のいない学校ってどうしてこうも寂しげなんだろう。
もっともチョビもペシュもちゃんといるのだが、すっかり寛いで寝息を立てている。学校内は基本的に安全ではあるけれど、これはちょっとだらけすぎだろう。
街へ出たら、ちゃんと僕達の護衛してね。最近では、僕の身辺はそれほど緊張することもないんだけど、何しろ同行者が学園のお姫様だからね。
まもなくしてニーナが手を振りながらやって来て、さっそく街へと出かけることにした。
学校が始まるか始まらないかというこの時間は、朝も早い時間なのでまだまだ朝食を食べさせる屋台などが軒を連ねている。
「ちゃんと朝ご飯食べてきたのに、なんだかいい匂いにつられちゃいそうね」
ニーナだけじゃなく、さっきまで寝ていたチョビやペシュまで首を伸ばして屋台をきょろきょろ物色している。油断すると寄り道しそうになるニーナと従魔たちに苦笑しつつ、僕達は冒険者ご用達のお店が立ち並ぶ中央辺りまでやって来た。
「そういえば、ニーナはここの冒険者ギルドには入ったことがあるんだっけ?」
「ええ、前にアリスとね」
以前、正体不明のダンジョンに紛れ込んだ際に、たくさんのドロップ品を収集した彼女たちは、その鑑定のためにここを訪れたのだ。その際、騒ぎになってほうほうの体でその場を後にしたらしく、それ以来は立ち寄っていないとのことだった。
「今回はただの登録だもの。大丈夫よ」
そう言っていたニーナだったが……。
冒険者ギルドで窓口のお姉さんに話しかけた僕達は、数分後には、あれよあれよという間に応接間のようなソファーに座らされていた。
「ちょっと……! ニーナ、ぜんぜん大丈夫じゃないんだけど」
「そ、そうね」
秘書のような女性がお茶を出してくれて、恭しく「少々お待ちくださいませ」と告げて部屋を出て行ってから、既に数分はたっている。
「……前のことはともかく、ニーナの身分のことじゃないの?」
彼女たちが何を見せたのかは知らないが、それだけが原因ではない気がする。学校ではあまり考えたことはなかったが、ニーナはこの国の王女なのだ。やはりその辺が引っかかったんではないだろうかと思った。
何しろ、僕が冒険者になるって言った時でさえ家族に驚かれたのだ。
貴族が前線で戦闘するようなモンフォールにしても、貴族や王族が冒険者になることは少ない。エドガーは僕に影響されてか冒険者になる気満々だけど、エルマン様やウチの兄様たちは冒険者になってないし、たぶんならないだろう。
ましてや、あのバートンを見ればわかるように、このドリスタンではさらにその傾向は顕著であろう。
そんなことをあれこれ考えていると、やがて応接室の扉を叩く音がした。
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