ニーナの誘い2
多少の身長差ならどうにかなるけれど、これだけの差があっては僕が男性パートというのは無理がある。まあ親子でとか、姉弟でとか、そういう家族バージョンの仕様なら構わないかもしれないけど、正式なダンスで、しかもニーナにとっては内輪とは言え、はれの社交界デビューなのだ。
変に目立って、恥をかかせるわけにはいかない。
少なくともバートンは、いちゃもんを付けてくることが目に見えている。もちろん気持ちの上では何でも協力してあげたいけれど、かえって面倒なことになってはニーナに申し訳ない。
「そうだ、エドガーに……」
「あら、大丈夫よ。うまくアレンジするし、そのためにアリスのお屋敷を、練習場に借りたんだから」
身分も身長も釣り合うし、エドガーにでも頼んでみては? と、提案しかけた僕の口は、え? という形に固まった。
「……なに? なんの話?」
「だからね、さっき聞いたじゃない、週末空いてる? って」
「う、うん、それは確かに空いてるけど。それって、パーティに……」
「ううん、違うの。パーティは一か月後なのよ」
要するに、たっぷり期間を取ってアリスを巻き込んでの作戦会議兼、ダンスの練習をしようというわけである。
学園都市内に、ニーナの拠点になる場所は寮しかないので、すでにアリスの屋敷の夜会用ホールを借りる手はずになっているというのだ。
いやいや、そんな大事にしなくても。
僕は、さっき言いかけた提案をニーナに話した。エドガーなら気心も知れてるし、丸く収まると思うんだけど。
「エドガーにも声は掛けてあるのよ? お義兄様にお伺いしたら、お誘いして構わないって言われているし……」
「……なんだ、そうなんだ」
だったら、なんなんだろう? 話はついてるんじゃないか、人騒がせな。
「でも、私は……せっかくのデビューだし、……と踊りたいのよ」
なんだかごにょごにょ口の中で呟いた声が聞こえなくて、なに? って聞き返したら、なぜだかすごく怒られた。
何だろう、ニーナが情緒不安定なんだけど。
ともかく、エドガーもいざとなれば協力してくれるらしいし、週末は絶対付き合って欲しいというので、結局最後には約束させられてしまった。
まあ、予定はないからいいんだけどね。
「言っておくけど、僕はダンスは得意じゃないよ」
「大丈夫よ、だから練習するんだもの」
大丈夫な気が一ミリもしないんだけど? っていうか、この分だと僕と踊るのは決定事項のようである。
まあ、ニーナのそんな無茶が通るくらいなんだから、本当に身内だけの小さなパーティなのかもしれない。それなら、ちょっとくらいダンスのバランスが悪くても許されるのかな。
僕が頷くと、ニーナは心底ほっとしたように笑った。
練習してみれば現実がわかるだろうし、取りあえずはアリスの家への招待な訳だから断る理由はない。
「よかった。あ、リュシアン、明日は冒険者ギルドについて来てね!」
いろいろあって忘れていたけど、そういえばそんな約束してたね。
明日は二人とも、午前中の授業がないので朝食を取ったらすぐに街に下りようと決めた。この後、ニーナと僕は別々の課題に向かうため食堂を後にした。
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