ニーナの誘い
「ごめんね、不愉快な思いさせちゃって」
「ニーナのせいじゃないし、気にしないでいいよ」
最後にチラリと僕の方を見たバートンは、なんだか道端の石ころでも見るようだった。たぶん、彼の僕に対する印象は、おかしな研究をして、ニーナの周りをチョロチョロしている子供、くらいの認識だったのだろう。
実際に、特別クラスに上がれたのだって、薬剤師関連が大きなウエイト占めてるし、だいたい魔法陣の研究者って、変人とか暇人というのが概ねの評価だしね。
さらに僕の場合、新しい魔法陣の巻物を市場に出せるわけでもないから、目立った貢献をしていないのも本当だ。
まあね、正直なところ僕のことはいいんだよ。たいして知りもしない彼にどう思われても構わないし。
ただ、バートンが言いかけた言葉を、ニーナがかぶせるように止めていたのが、ちょっと気にはなった。
「実はね……」
それについては苦笑しつつも、ニーナはすぐに教えてくれた。
どうやら過去に、ニーナが成人までに相手を決めることが出来なければ、バートンと婚約、という話があったというのだ。
これは、今は亡きバートンの母親が望んでいたことで、若くして亡くなった妻の願いをかなえたいという現在の辺境伯、つまりバートンの父親が、叔父であるニーナの父で国王に懇願した、というのが真実らしい。
けれど、これにはいろいろな利権を伴う弊害もあり、さらに今ではもっと面倒な事柄も重なって、すでに白紙になっているという。
ただ、バートンはそれに納得しておらず、ああしてしつこく付きまとっているというわけだった。なるほど、ニーナが頑なに相手がいると言って断っていた理由がわかった。
ここで誘いを受けてしまうのは、確かに悪手だろう。
「……もちろん、彼を結婚相手として見れないって言うのも本音だけど、それだけじゃないの。彼とは絶対に結婚する訳にはいかないのよ。父が、その話を相談された時と、今では状況が違い過ぎるんだもの」
なにやらいろいろ事情があるようだ。
もとより王族であるニーナは、意に添わぬ結婚であっても、お国の為に必要ならば従うこともあるだろう。それが例え、好いてもいないバートンであってもだ。そんな彼女が、それは絶対にできないと断言している。
おそらくこれには深い理由があるのだろう。
さすがに全部を明かしてはくれてないようだが、取りあえず状況を把握することはできた。
「ねえ、リュシアン。だからお願いってわけでもないんだけどね……」
「あ、僕なら無理だよ」
「ちょっ……私、まだ何も言ってないんだけど」
「ダンスの相手っていうなら無理だよって、こと。申し訳ないけど」
「ど、どうして!?」
やっぱりそんなこと考えてたんだ。
もちろんパーティのパートナーとしてってことなんだけろうけど、この場合はダンスのお相手がイコールなのだ。パートナーの役割の半分は、たぶん虫よけだろうから。
バートンも気が付いていたようで、僕を見てせせら笑ってたでしょ。だって、致命的な欠点がある。
努力ではどうにもできない、足りないものが。
「もうっ、バートンの奴……、リュシアンが警戒しちゃったじゃないの。だから不意打ちで誘おうと思ってたのに」
いや、バートンのせいじゃないから。
そんなことまで彼のせいにするのはちょっと可哀想だろう。なんかこう、彼とニーナって、色んな意味でそりが合わないっていうか、水と油って感じだよね。
どんなに取り繕っても、ニーナが彼を嫌っているのは明白だし……むしろ、毛虫のように。
彼にだって、それはわかっているだろう。
なのに、どうしてああも執拗にニーナに拘るんだろうか。
「違うよ、ニーナ。理由は簡単だよ。僕達じゃ、どう頑張っても身長が釣り合わないからね」
それともう一つ、僕はあまりダンスは得意ではない。
あまり頑張ってこなかった部類の要素だからね。そもそも、この学校を選んだのだって、そういう煩わしい貴族の社交界から縁遠いってのも理由の一つだったし。
なにより、冒険者には必要ない。……たぶん。
お読みくださりありがとうございました。




