出会い頭
僕の意識は、この辺りからぼんやりと薄れ始めていた。
どこかに引きずり込まれるような、不思議な感覚が激しいめまいを誘発した。ただはっきりしていたのは、繋がれたカエデの手の感触と、チョビやペシュから伝わってくる体温、あるいは魔力。
時間にして、それはたった一瞬だったかもしれない、気が付くと手を乗せていたはずのリンの身体が手の下から消えていた。歪む視界が焦点を結んだとき、そこは静まり返った室内のようだった。
元の場所――、モンフォールのギルド前ではなさそうである。
パチパチと瞬きして辺りを見回すと、そこには豪奢な柱にピカピカに輝く床、そしてずっと先まで続く絨毯が目の前に広がった。
この光景、どこかで見たことがあると思ったらモンフォールの城内に似ている。けれど、すぐにそこがモンフォールではないとわかった。調度品などに刻印された紋章が明らかに違ったからである。
そこまで確認して、はっとしたように自分の手を確認した。
「あっ……リュ、リュシアンここって……?」
繋がれた手をいきなり持ち上げられて、カエデはちょっとだけ驚いたように僕の顔を見たが、すぐにまた周りに目を奪われたように見渡している。
チョビもちゃんといるし、ペシュも襟からチョコンと顔を覗かせた。ゾラもすでに半歩下がった後ろに控え、この場所を検分しているようだ。
よかったみんな無事だ。リンの姿はないようだけど、僕はちゃんと元の世界に戻れたってことでいいのかな。
だって、ここって――。
「そこにいるのは誰だ!?」
振り向くと、そこにはまだ年若い青年が立っていた。ゲームの登場人物のような燃えるような赤い髪に、少々強気そうな群青色の瞳に、眉も凛々しい、いかにも主人公のような男だった。
兵士を引き連れた身分の高そうなその男は、僕達の後方から現れた。すぐそこの角を曲がってきたようで、いきなり煙のように現れた僕達に驚いた様子だった。
「殿下、お下がりください! 即刻捕らえて……」
「いや、待て。どう見ても子供だろう、どうしてこんなところに?」
僕はカエデを後ろに庇い、すぐに動こうとしたゾラを手で制止して、どうしたものかと頭を悩ませた。
先ほど確認したエンブレムから、ここはおそらくドリスタン王国のいずれかの城だろう。王都のお城か、離宮か、それはわからないけれど、少なくともこの場で殿下と呼ばれた彼は、王族と見て間違いない。
えと、ニーナのお兄さんは……王太子で、名前が確かアンソニーだったかな。
実際に会ったことはないし、ニーナがドリスタンの兄のことを話題にしたことがないので(兄と慕っているモンフォール王太子エルマン様のことは耳タコだけれど)、情報が少なくて断言はできないが。
あまり噂を聞いたこともないので人柄がわからず、僕は次の一手を切り出せないでいた。
「君は、容姿からするとモンフォールの貴族かな? 陛下に謁見されたどなたかの子息だろうか?」
どうやら彼は、僕の髪色と護衛のように後ろに控えるゾラを見て、王国を訪問した貴族の子供が迷子にでもなったのかと推測したようだ。ただ、普段着に毛が生えた程度でしかない粗末な出で立ちの僕を、じろじろと観察する目はどこか冷たい眼差しに思えて気になった。
これでも向こうを出発する時、それなりに身なりを整えたつもりだったんだけどね。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はモンフォール王国の……」
それでもこのまま黙っているわけにもいかず、立ったままではあるが礼法に則って恭しく頭を下げた。
――その時である。
「……リュ、リュシアン!?」
いきなり大きな声で名前を呼ばれて、僕は挨拶の途中にも関わらず思わず頭を上げて、よそ見をするという無作法をしてしまった。なぜならその声は、とてもよく知っている人物の者だったからである。
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