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コーデリア

 リィブを見送った後、僕達は小屋へと場所を移した。


「お祖母様は、その……」


 僕達の前には、アリソンさんが淹れてくれたばかりの温かいお茶が湯気を立てていた。すぐ目の前には我が祖母ながら驚くほどの美貌の女性が、ティーカップから立ち上る芳香を楽しんでいた。


「なあに? 遠慮しないで何でも聞いて」

「あの、あちらに戻らなくてもいいんですか? それにお祖父様のことも……」


 息を吹きかけながらお茶に口をつけた彼女は、僕の台詞に驚いたのか、お茶が思ったより熱かったのか、いささか慌てたようにカップをテーブルへ戻した。すぐに口を開きかけて、少し思いとどまったように上目使いで天井を見上げると、ちょっとだけ困ったような笑みを浮かべた。


「ア、アドルフのことは……もう、今更でしょう? 彼には守るべき家族がいるし、もとよりあの人と私の住む世界は違ったのよ」


 それもそうだろう。以前お会いしたお爺様はすでに七十を過ぎた初老の姿だった。それでもモンフォールの貴族は、強い魔力の影響でそこそこ長命でいつまでも若々しい容姿だが、それと比べてもコーデリアは段違いに若く二十代くらいに見える。


「そうだよねぇ、もともとディリィは、彼に会った時にはすでにいい年だったし……あいたっ!?」


 リンは出されたお茶菓子を次々と口に入れながら、ついでのように会話に入ってきて、即座に二の腕を抓られて飛び上がっていた。


「余計なことはいわなくていいのよ」


 ここは「いくつなの?」などと、聞いてはいけない場面だろう。なにしろお祖母様の目が笑ってない。


「それにね、こちらに迷い込んだ当時は向こうへ戻る手立てがなかったのよ。リンと出会ったのは、数年経ったあとだったしね……」


 ここで、彼女のたった一つの心残りがポツリと本音として漏れた。


「あの子だけでもこちらにと思ったのだけど……その手段を得た時には、ね」


 それは間違いなく僕の生母、シャーロットのことだろう。

 ティーカップの縁を指でなぞりながら、しばらく沈黙していた彼女は、それでも次に顔を上げた時には微かに笑っていた。


「でもね、あの子は私に貴方という宝を残してくれた。そして、シャーロットの妹が貴方を心から慈しんで、こんないい子に育ててくれた。本当に感謝してるのよ」

「……どちらの母様も、僕にとっては大切な母です」


 そうね、と言ってお婆様は嬉しそうに笑った。


「リュシアンは覚えてないと思うけど、ディリィに頼まれてあちらに行った時、ボクと会ってるんだよ。キミは見知らぬ男に、荷物のように抱えられて泣いていた」


 もしかして前に父から聞いた、離宮で僕が攫われたっていうあの事件のことだろうか。じゃあ僕が助かったのはリンのおかげだったんだ。

 リンの話では、どうやらお婆様に様子を見てきてくれと頼まれたようだが、場合によっては母子ともに連れ帰ろうと考えていたらしい。けれど、シャーロットの衰弱は激しく、動かせる状態ではなかった。結局、シャーロットが身内に子供を預け、その後しばらくして息を引き取るまで、リンは数日間に亘り見守っていたのだという。


「あれから何年かな、無事に育ってよかった……九年、十年かな?」


 しみじみと二人に見られて、僕は少しだけ気恥ずかしい面持ちになった。

 なんというか、僕はちゃんと彼らの期待通りに育ったのかな、とか埒もないことを考えた。僕だって人の子だ、ガッカリされたらやっぱり悲しい。ついつい、まだ子供のように小さな手をじっと見つめてしまった。

 すると、僕が考えていることが分かったように、お婆様は小さく微笑んだ。


「私には魔族の血も流れてるけど、娘のシャーロットもエルフだったし、特に貴方はハイエルフである私の影響を色濃く受け継いでしまったのね」


 あー……、やっぱりお祖母様ってハイエルフなんだ。もしかしてって思ったけど、この異様に遅い成長はそのせいだったんだ。

 これで当分、成長が見込めないのは決定だ。そろそろバーンと成長すると期待してたんだけど、地味にショックだ。いやいや、原因ははっきりしたんだ。ここはポジティブに。そう、お祖母様も、あの父親も長身なんだ、僕もそのうち……。

 ――ん!?


「魔族……、魔族って言った?」

「ええ、言ったわよ。うちはどちらかというと、魔族の家系だから」


 ええええ――!?

お読みくださりありがとうございます。

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