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村にて4

 カエデはそう言って矢面に立ったが、むろんそんなわけにはいかない。ゾラはいざとなったら僕を担いでこの場を退散しかねないので、なんとかこの場を穏便に収めたかった。

 向こうが先に武器を構えたとはいえ、むやみに蹴散すわけにもいかない。下手に応戦した場合、向こうにより強い権力があれば、なんらかの執行妨害のような罰をかぶせられる可能性があるからだ。


「大司教様」


 刃を向けられている以上、下手にナイフを収めることはできなかったが、それでも僕は武器の切っ先を下げて話し合いの姿勢を示した。


「お尋ねしますが、この強制拘束は正規のものですか? 事情を聞きたいのなら、日を改めてこちらから教会、または神殿の方へお伺いします。先ほどもカエデが言ったように、僕は村長の依頼を受けただけです。順序からすれば、村長にこそ事情を聞くべきではないかと思うのですが?」

「……村長は脅されてクエスト依頼をさせられたと訴えています」


 うーん……むしろ机をバンバン叩いていたのは村長だったと思うんだけど。

 ――なるほど、これは本当に茶番なんだと確信した。大司教は事実を追求しようとしているのではなく、都合のよいシナリオを演じたいだけなのだ。

 教会の武装集団の後ろに隠れた村長は、まるでこの逮捕劇の観客にでもなったように余裕の表情を浮かべている。予想外の荒事になって驚いていた村人たちとは、明らかに態度が異なる。

 湖の小屋に来た時も本来なら幾人か連れてきていたようだし、僕達がいたことで多少の予定変更はあったものの、もとより何らかの仕掛けはしていたのだろう。


「ちょっと! それを鵜呑みにしたわけ? 一方的に村長の言い分を認めるのは不公平じゃないの!?」

「真偽を問うためです」


 カエデの抗議もどこ吹く風、だからこそだと言わんばかりに大司教は臆面もなく続けた。暖簾に腕押し、こうなればもう何を言っても始まらないだろう。なにしろ、最初から嵌める気満々なのだから。


「この度のカエデ殿の逃亡、さらには逆恨みよる村人たちへの毒殺未遂。そして協力した冒険者、アナタにも逃亡幇助、並びに善意の村長を恐喝したという疑いがあります。これよりカエデ殿は大神殿に、そして冒険者……確かリュシアン殿でしたかな、アナタは私の管轄の教会にて事情をお聞きします」


 もはや、対応は罪人決定と言わんばかりの扱いだ。それに、なぜ僕は大神殿に直接行かず大司教の縄張りで事情聴取されなくてはならないのか。

 いつの間にかカエデは逃亡犯、いやまあこれは事実ではあるけれど……加えて、事実無根の村人への毒殺未遂、そして僕には恐喝の罪がきせられていた。


「抵抗はしないことです。カエデ殿、ご家族の為にもよくよく熟慮して行動なさいますように」

「……ッ!」


 これこそが脅迫でなくてなんだというのだろう。たぶんここで暴れれば、間違いなくカエデの家族になんらかの手が伸びるだろう。ありもしない罪状付きというオマケ込みで。

 ――カエデたちは、今までこんな理不尽な環境下で暮らしていたのだろうか? 村人たちは見て見ぬふり、村長は率先して手先になる始末。今回ほど大事ではなかっただろうけど、きっとこれまでもこんなままならぬ思いをしてきたに違いないのだ。

 カエデが辛抱している限り、僕がしゃしゃり出る訳にはいかないとは思っていても、さすがに何か言わないと気が済まない。


「わかりました。ですが、僕が行くのは大神殿です。もとよりカエデの幇助というなら一緒に行くのが道理、文句はないでしょう?」


 こうなれば、一番偉い人に会ってガッチリ事情を聞いて……って、なるほど。たぶんカエデもこんな気持ちで帝都へ乗り込もうとしたのかもしれない。必要とあらば、僕がこの世界の住人でないことを明かしてもいいと思った。その特異性により、上部とコンタクトが取れるなら面倒事など甘んじて被ってやる。


「いや……、それは、いえ! なりません、審議の済んでない者を大神殿になど」


 何故か急に狼狽えた大司教は、気を取り直すように咳ばらいをして「まずは私が事情を」と言って、取り合わなかった。その理屈ならカエデとて同じではないかと問うと、それ以降は貝のように口を閉ざして問答無用とばかりにいきなり白装束をけしかけた。

 カエデ、僕、ゾラは、仕方がなくそれぞれ背中を合わせるようにして武器を構えた。

 ――と、その時。


「キィィィィィィッ!」


 耳元でペシュが奇声を上げて上空へ飛び立った。チョビも上空を見上げてギチギチとしきりに顎を鳴らしている。その超音波のような鋭い音に驚いて、襲撃者たちは思わず足を止めて誘われるように上空を仰いだ。


「……ば、ばかな。あれは」


 大司教は、掠れた声でやっとの思いでそれだけを呟く。

 木々の隙間からのぞく真っ青に澄んだ空。そこに金色の長いたてがみが、風にたなびいてサラサラと揺れていた。翼を持たぬ獣が神の領域である空を足で駆る、それを許されたただ一つの生き物――。

 そこには眩い鱗を陽の光に反射させてキラキラと煌めく美しい麒麟の姿があった。

お読みくださりありがとうございます。

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