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村にて3

 皇帝が躍起になるのはわかる。妃に迎えるはずの女性に逃げられたとあっては、それこそ権威だとか体裁だとか傷つくものもあるだろう。けれど、そもそも地位を盤石にするためにカエデを迎え入れようというのに、その妻にするつもりの人物を罪人に仕立て上げるだろうか?


「そちらの……冒険者の貴方にも、事情を聞くために同行していただきましょうかな」

「やめてよ、リュシアンは関係ないでしょ。ただ村長の依頼を受けただけなのよ。巻き込まないでよ!」


 ゾラに阻まれたままの白い長衣の集団は、それでも僕を拘束しようと距離を縮めようとするのを、カエデは庇うように腕をバリケードのように伸ばした。ゾラとカエデに阻まれて、双方じりじりと睨みあいになる。

 いや、この構図おかしくない? なんでメインのはずのカエデが僕を庇ってるの? というか、教会側からしたら僕なんか部外者で邪魔者のはずなんだけど……。


「それとそこのアナタ、どなたかは存じませんが罪人を庇うとためになりませんよ。ほらお前たち、早くしなさい。カエデ殿と、その少年を捕らえなさい」


 何度か監視しているなら、ゾラが僕の護衛のような事をしているのを知っているのだろう。雇われ護衛なら、その契約など蹴散らせる程の権力に、わざわざ逆らわないと踏んだようだ。事情を聞きたいというなら、同行していた護衛にも話を聞くべきだとも思うが、どうやらゾラを捕らえる気はないらしい。

 そして、大司教の言葉に促されるように、白装束たちはカエデの腕を掴み、さらに数人が僕にも手をのばしてきた。

 もちろん僕も避けようとしたが、それよりも早くその手を掴んだのはゾラだった。

 風が舞う音がして、次の瞬間には、僕の目の前を白い長衣の裾が翻り、サンダル履きの足が映った。続いてドサッと重い音が追って、気が付いた時には男が一人ひっくり返っていた。


「……この方に触れるな、痴れ者が」


 カエデの腕を掴んだ男も、他の男たちも、咄嗟に凍り付いたように立ち止まった。僕を捕まえようとした手首を掴んだゾラが、それこそ目にもとまらぬ速さで、軽々と大柄な男ををくるりと回転させるように転ばせたのだ。


「な、なんのつもりですか。この大司教たる私に逆らうつもりですか!」


 ゾラは、大声を上げる大司教には目もくれず、目の前の男たちを睨みつけていた。その殺気に、さすがの白集団たちも怖気づいたように後ずさり、カエデを捕らえていた手も放していた。


「ッ……全員武器を持て。何としても捕らえよ」


 振り向きもしないゾラに舌打ちした大司教は、おもむろに合図をするように腕を上げた。すると、村人たちの人垣を押しのけるように武器を持った白装束の男たちが、新たに数人現れた。野次馬の村人たちは、あまりの物々しさにほとんどの住人が慌てて家の中へと逃げ込んだ。

 彼らの数はゆうに十数人、その手には杖、長剣など様々な武器が握られている。

 ちょっとちょっと、なんでこんな大事になっちゃうの!? 僕達は井戸を浄化にきただけなんだけど!

 おもむろに襲ってきた彼らは、手始めにゾラを大人数で取り囲むように力ずくで僕から引き離し、カエデと僕は武器を構えた数人に囲まれた。カエデもすぐに鉄扇を取り出し、今度は掴まれないように相手を牽制した。

 これだけ密集されると、僕の魔法やゾラの精霊術は使いどころが難しい。チョビもそうだが、ゾラの場合も相手を殺してしまいかねないのだ。仕方がなく、僕も二本のナイフを構えた。


「抵抗はおやめなさい、話を聞きたいだけなのです。おとなしく掴まれば、誰にも手荒な真似はしないと約束しましょう」


 それはどうだろうか。これだけ無茶をする相手だ、捕まったあとで話しが通じるのか甚だ疑問である。彼の目的がなんであれ、絶対に碌なことではない予感がする。

 とはいえ、僕達はこの世界の住人ではないのでいっそ逃げてしまえばおしまいだが、カエデはこちらでの立場があり、家族もいる。ただこの場を切り抜ければいいという話ではないのだ。

 なにしろ相手は権力を持つ相手で、下手をすれば家族を人質に取られかねない。


「私のことは気にしないで! リュシアン、貴方たちは逃げて!」

お読みくださりありがとうございました。

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