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村にて

 翌朝、僕達は昨日作った薬を持って村へと向かった。

 例によってお留守番のアリソンさんはちょっと残念そうだったが、こればかりは仕方がない。日中に、ギルドを完全に空にするわけにもいかないのだ。


「もうすぐ村よ。ほら、私の家が見えてきた。ちょっとだけ村はずれなんだけどね」


 ちょっと……、というのは控えめに過ぎる表現だった。

 カエデが指を指した家は、そこそこ大きいけれど、なんというかかなり年季の入った建物で、文字通りぽつんと一軒だけ建っている。周辺を見渡す限り、近くに他の建物はない。


「ご招待したいところだけど、今日のところは用件を先に済ませちゃいましょう」

 

 カエデは実家の紹介もそこそこに、その先を急いだ。

 帰った報告くらいはしてもよさそうなものだが、カエデはまるで家人に気がつかれないように足早に門の前を通り過ぎてしまった。その建物を一瞥して、僕は何も言わずその後に続く。

 古い門扉や、家を囲む石塀があちこち壊れている。老朽化で自然に壊れた所もあるようだが、明らかに人の手によるものと見られるものもあった。それも、かなり新しい傷跡だ。

 カエデの一族は元貴族で、しかも謀反の罪人として扱われていた。こんな離れに屋敷があるのは、もともとそういった事情からだろう。

 もともと、村人たちとは壁のようなものがあったのかもしれない。そして今、カエデや、その家族にあらぬ嫌疑がかけられている。屋敷に残された様々な痕跡は、それらを真に受け、噂に踊らされた一部の村人が、暴動まがいの騒ぎを起こしたものといったところかもしれない。それとも、そう差し向けられたか……。

 無遠慮に壊された塀、さらにはその庭の菜園にまで無数の足跡によって踏み荒らされていた。

 カエデがブチ切れて、皇都へ行くと啖呵を切る姿が目に浮かぶようだった。

 そこから少し歩くと、ようやくぽつぽつと民家がいくつか並んで、やがてとんがった教会の高い建物が見えてきた。問題の井戸は、教会の前の広場にあるらしい。

 教会へ向かって歩いていると、なぜかチョビがそわそわと身体をゆすり始めた。

 目的地の広場には、何故か大勢の人だかりが出来ていたのだ。その中心には縛られた人物が座っている。カエデを振り向くと、首を振ったので見知らぬ人間、少なくとも村人ではなさそうだった。


「おお、待っておったぞ。そちらの首尾の方はどうなった? こちらはほれこの通り、首謀者と思しき人物を捕まえたぞ」


 手柄顔で村長が僕達の前に現れた。いかにも苦労したかのように、やれやれと言わんばかりの顔をしている。

 昨日の今日で?! いや、まあ実際は一昨日だけども。

 そんなことより、急すぎない? 手っ取り早く掴まり過ぎじゃない!? だいたい、それ首謀者じゃないよね。百歩譲って犯人だとしても、ただの実行犯だよね。

 確かに、犯人を捕まえるべく対処してほしいとお願いしたが、せいぜいが井戸の前に見張りを立てるとか、そんな程度しか期待していなかった。というか、1~2日ではそれくらいしかできないだろう。もちろん、リィブはがっつり親玉を引きずり出して欲しかったのだろうが、そんな簡単にはいかないだろうしね。

 とにかく村長としてはやることはやった、そっちもさっさとやることをやれ、とでも言いたげであった。


「……こちらも、中和剤が完成しました。たぶん、これで井戸は浄化されるでしょう」

「おお、それは重畳」


 僕の言葉に、村長は大袈裟に喜んで両手を差し出した。

 村長がどういうつもりでも、とにかく優先順位は村人を脅かす汚染された井戸だと思い、僕はカバンから薬を取り出した。愛想よくニコニコ笑っていた村長は、無色透明のそれを手に取った途端、その笑みをニヤリとゆがめて後ろの人混みの中から出てきた人物に手渡した。


「なるほど、やはり中和剤も用意していたということですかな、カエデ殿」


高価そうな光沢のある白い長衣を纏った初老の男がゆったりと歩み出てきた。当然、僕たちはぽかんとしてしてしまう。何を言われているのかわからなかったからだ。


「この男がすべて白状しましたぞ。貴女の指示で行ったと……」


 彼が指差すのは、縛られて井戸の前に座らされた若い男。カエデをチラリと見て、白衣の男にしきりに頷いている。ますます意味が分からない。当然カエデは知らないと首を振る。

 というか、いきなり出てきたこの人は何者?


「ちょっと待って、村長! これはどういうことなの。大体、誰よこの人」

「言葉を慎め、カエデ。この方は、今回の件を公正に判断を下すべく教会からおいで下さった大司教様だ」

お読みくださりありがとうございました。

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