クエスト完了
「おかえりなさい。準備はできてるわよ」
ギルド出張所の小屋に戻ると、アリソンさんが準備万端で待っていた。特定の毒に対してのみの特効薬、及び中和剤。万能薬ほど貴重品ではないが、それでも抗毒物質を保ったままのべス草という、稀有な素材を使った特別な薬の調合である。
どのような毒、それがたとえ呪毒でも、その毒によって変化したべス草さえあれば、解毒剤が作れる方法だ。もっとも、変化しやすいという特質が仇となり、その状態をいかに保つかが課題になる。
調合さえしてしまえば、安定するのでそこまでが勝負なのだ。
アリソンさんが他の素材を調合し、慎重に混ぜていく横で、僕はべス草を扱いやすい素材にするために魔力を使って錬金を始めた。絶妙のタイミングで錬成を終えなくてはならない。
「リュシアン君、準備はいい? 次の変化が起こったら投入よろしくね」
「はい、いつでもどうぞ」
薬草は光にも反応するため、僕とアリソンさんは二畳ほどの狭い暗室に隣り合って座っている。そしてアリソンさんの合図で、液体に変化させたべス草を混ぜ合わせることで、それは完成した。
出来上がったのは、無色透明の液体だった。
「うまくいったわね。一人ではタイミングが難しいから、リュシアン君がいてくれて助かったわ」
暗室を出ると、カーテンの前でカエデとゾラが待っていた。座って待っていればいいのに、カエデなどはそわそわと落ち着きなく歩き回っていたようだ。
暗室に入る際に追い出されてしまったチョビとペシュも、預けてあったゾラの腕から、慌てて抜け出して僕に飛びついてくる。
「さっそく村へ行って……と言いたいところだけど、今日はもう日も落ちたし明日にしたほうがよさそうね。そしてリュシアン君、この中和剤の完成をもってクエストは完了よ」
まだ井戸の浄化はされてないが、冒険者として僕が受けたクエストは、ダンジョン内の毒の有無、さらには中和剤の材料の調達までだ。それ以上は、よそ者ではなく村人たちの管轄である。
「薬の調合も手伝ってもらったらから、村長が提示した金額に、少ないけれど私個人からの報酬も加えておいたわ」
手数料を貰うつもりはなかったので断ろうとしたが、冒険者ならこういう報酬はきっちりと受けるべきとアリソンさんに嗜められた。ギルドカードを手渡すと、アリソンさんは魔力を使ってクエスト完了と、今回のクエストに相当するギルドポイントを追加した。
ギルドポイントというのは、要は貢献度のようなものである。昇級や特別褒章、逆にペナルティーや、罰金などの参考になるのだという。
「はい、ギルドカードはもういいわよ。お疲れ様でした」
アリソンさんから革袋に入ったクエストの報酬と、ギルドカードを受け取って、僕の冒険者として初クエストは取りあえず終了した。
もちろん、パーティを組んでいたカエデのギルドカードにもポイントが加算される。ゾラは雇われた傭兵という扱いなので何もない。この場合、通常は雇い主である冒険者が報酬を払うのだが、ゾラはいつも通り護衛の任務に就いていただけだけだと言って、譲ることはなかった。
ゾラの場合、僕の専属とはいえ、給料は国から貰っているのだから、二重に貰うことは出来ないということなのだろう。ちなみにカエデには、クエストのポイント配分を参考に、報酬の何割かを手渡した。これはアリソンさんの助言によるものだ。
ここでカエデは、いざという時の為にと渡してあった金貨の入った革袋を返してくれた。ポシェットも一緒に返してきたが、僕は革袋だけ受け取ってそれはカエデの手に戻した。
「このポシェットは、そのまま使ってもらっていいよ。僕が、練習で作ったものだから、遠慮しなくていいからね」
フリーバッグは貴重品ではあるが、もともとがドロップ品で作ったものだし、材料費はかかってないようなものなのだ。そして何より、どんな貴重品であろうとも、道具は使ってこそである。カバンの肥やしになるよりは、役立ててもらった方が、僕としても作った甲斐があるというものである。
「いいのかしら……でも正直、嬉しいわ。ありがとう、リュシアン。大事に使うわね」
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