依頼
「ちょ、ちょっと……やめてください村長さん。彼のランクでは指名依頼は受けられませんよ」
いきなりとんでもない事を口走った村長に、アリソンさんは慌てて僕たちの間に入った。
ギルドの仮にも職員となれば、ここは黙っている訳にはいかなかったのだろう。なりたての僕でも知ってる、指名依頼はCランク以上の冒険者、それに別途指名料が必要となるのだ。
僕がFランクであることをアリソンさんは知らなかったが、それでも冒険者になったばかりだと伝えてあったので、そこは察してくれたのだろう。
「クエボードに貼れば同じことだろう。冒険者としてここの施設を使用している限り、この地域に貢献してもらわねばならん」
またまた独特の持論が出たね。呆気に取られているうちに、オジサンはクエ依頼の手続きを強引に進めようとしている。アリソンさんも一応、正式なクエ依頼なら断ることはできない。
「アリソン、早くせんか」
「それは構いませんが、彼が受けるかどうかは当然ながら彼次第ですよ。そこだけはご理解ください」
困惑しながらもアリソンさんは、仕方がなく受付に置いてある書類ボードを手に取った。
「……もとはといえば、お前ら家族が……ったく、ろくなことがない」
忌々しそうに口の中で悪態をついて、返事の代わりにふんっと鼻息を荒くした。この期に及んで、まだカエデたち家族のせいにしておきたいらしい。
「依頼内容は?」
「ふん、決まっておる。井戸の汚染の原因解明と、水の浄化だ」
…………は?
まあ、百歩譲って浄化はわかる。
だけど汚染原因の解明って、……この村長さんだってわかってるはずだよね?
いや、わかっているから厄介なのか。要は、面倒事ごとを一切合切通りすがりの冒険者に擦り付けて、体よく問題を片付けようとかいう魂胆ってわけ?
「汚染は湖、ダンジョンに広がっている。もともと乙女の支配する湖一帯、むろんダンジョンもだが、すべてギルドの管轄だろう。ああ、それからギルドに掛け合って賞金を出させる手続きをすぐにしろ。この件に関して儂はびた一文出さんからな」
……うん、もう呆れて言葉もない。
アリソンさんも、さすがに依頼書に記入する手を止めて口を開きかけたが、僕はそれをやんわりと手で制して、村長に目を合わせてきっぱりと言い放った。
「その条件だと、依頼を受けることは出来ません」
「な、なんだと、小僧! 冒険者の分際で舐めた口を……っ」
僕がなにか発言するとは思わなかったのだろう、驚いたように振り向いてまるで脅しつけるようにテーブルを力いっぱい叩いた。上に乗っていた食器が、激しくガチャッと一斉に跳ね上がる。
けれど、その様子を白けたように見送った僕に、村長は気圧されたように一歩下がった。
「……確かに僕はたかが新人の冒険者だけど、それが乙女の言葉ならどうです?」
「な……、なに?」
そう、これはさっき僕がみんなに言いかけたことだ。
朝、乙女から頼まれたこと。
「乙女は、村人が自らの過ちを認め、ダンジョン側に滲み出す汚水を浄化させたなら、今回の件を水に流すと言ってました」
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