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リィヴ

「……だ、大丈夫?」


 思いっきり鼻からいったよね。スライディグぎみに地面に突っ伏した少女に思わず駆け寄りそうになったが、ゾラはそんな僕の腹辺りに腕を巻き付けたまま離そうとしない。気持ちはわかる、なにしろ登場の仕方が突飛すぎた。

 でも、さすがに地べたにウルト〇マン状態の女の子を放置するのは可哀想な気が……。

 すると、やがて腕を支えに起き上がった少女がこちらを恨めしそうに見た。


「リュシアン、よけるなんてひどいの」

「え!?……なんで名前、……ってか、ゾラ締まってる」


 ますます警戒を強めたのか、ゾラの腕に無意識に力が入った。……中身出ちゃうから離して。

 なんとか宥めて腕から降ろしてもらった僕は、さすがに用心してすぐに近づくことはしなかった。一見すると普通の幼い少女。けれど、髪の色は浅葱色というか青と緑が混じったような色で、瞳は空色、肌は透明感のある象牙色アラバスターだ。

 少なくとも、僕には見覚えはなかった。


「君は一体誰? 僕のこと知ってるの?」


 それまで誰も居なかったはずの、湖の中・・・から突然飛び出してきたのだ。少なくとも、普通の人間ではないだろう。


「しってるのよ、ディリィのいとしごでしょ。まえにきたときはおはなしできなかったけど、みてた」


 ぴょんと立ち上がって、彼女はワンピースの裾を払うような仕草をしてニッコリ笑った。

 ――ディリィ……前に聞いた名だ。


「わらわがはなすってゆったのに、リンがよこはいりしてきたの」

「……え? 誰が何って」


 次々知らない人の名前が出てきて、訳が分からない。いや、そもそもこの子が誰って質問なんだけど、答えになってないよね。


「リュシアン様、申し訳ありませんが、どなたとお話を?」

「え? この子……、まさか見えてないの」

「……いえ、見えてはいますが、声は」


 どういうこと? 確認するように彼女を見ると、じっとゾラを見つめて小さく頷いた。


「このひと、せいれいのかごをもってるの。だからわらわをみることできる」

「精霊の加護って、アリソンさんみたいな?」


 僕の受け答えでおおよその想像がついたのか、ゾラは表情一つ変えずに「なるほど、そういう事ですか」と一言呟いた。


「ということは彼女は精霊……つまり、湖の乙女というわけですね」

「あ、うん」


 とっさに気のない返事をした僕に、ゾラは思わず苦笑した。聞きたかった答えではないと察したのか、すぐに表情を改めてその疑問に答えるべく口を開いた。


「……私はいわゆる精霊憑きですよ」


 ゾラが言うには、精霊憑きとは両親とは似ても似つかない容姿で生まれることをいい、その地方では稀にあったらしく不吉だとされた。例にもれずゾラも生まれてすぐに養子に出されたらしい。

 彼の隠密のスキルが異様に高いのは、もしかしたらこの辺も関係しているのかもしれない。

 

「じゃあ君……いえ、貴女は湖の乙女と呼ばれる方なんですね」

「そうよ、でもリュシアンはとくべつにリィヴってよんでいいの」

「リィヴ、様?」

「そう、ディリィもリンもそうよぶの」


 彼女にその二人の事を尋ねたが、もうすぐ会えるよ、とだけ教えてくれた。踏み込んで詳しく聞こうかとも思ったが、今は取りあえず他にやることがあるのでそちらを優先させることにした。

 そう、彼女が湖の乙女なら話しは簡単だ。


「リィブ様、そちらのお水を頂いても構いませんか?」

「リュシアンならかまわないの、すきなだけもっていくといいの」


 この土地の湧き水は下から湧いてくる。水辺のすぐ近く、そこには石をくりぬいた大きなお椀のような水場が設置されており、底から湧いて来た水が溜まって滔々と縁から水が流れているのだ。


「アリソンさんはここの水は大丈夫だって言ってたけど、井戸はともかく、さすがに湖には手を出さなかったんだね」

「いどもみずうみもおなじみず。じめんつたってこっちにもふじょうきた、ゆるせない」


 どうやら汚染された井戸の水がこちらにも滲みてきたため、乙女の怒りに触れたようだ。しかも自分で汚しておきながら乙女の呪いとか言っているのだから、彼女の憤りも頷ける。


「このみずはだいじょうぶ。わらわがきれいにじょうかしてるの」

お読みくださりありがとうございました。

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