既視感
夕方になり野営に丁度良い場所を見つけると、簡易キャンプの準備をした。
暗くなる前にテントを設置して、テーブルにはランプを用意する。それ程広い場所ではないので、たき火のような大きな火は使えない。代わりに魔物避けのにおい袋を四隅に置いた。
「へえ、なかなか便利なものをもってるのね」
「従魔たちも嫌がるからあまり使いたくないんだけど、火も使えないんじゃ仕方ないよ」
チョビやペシュが不機嫌そうにしているのを宥めながら僕は苦笑した。それほど乾燥している時期でもないが、山火事でも出したら洒落にならない。
「そういえば、カエデはチョビのことよくわかったね。こっちではヘビーモスは珍しくないの?」
「いいえ、ヘビーモスを見たのは初めてよ」
以前、僕の連れている従魔を見て、こちらの人間じゃないかと指摘されたのを思い出して何気なく聞いたのだが、意外にもカエデはすぐに首を振った。そして、吸血コウモリはこの辺の洞窟に入れば結構いるけどねと、付け足した。
「え?……じゃなんで」
「姿を知っていたのは、絵を見たからよ」
高祖父が所蔵していた絵に初代皇帝のものは何点かあり、そこに描かれていた魔物がヘビーモスだったのだ。他にも初代皇帝の従魔たちは、たくさんの画家たちによって描かれており、フェンリルにグリフォン、古代竜など伝説級の魔獣たちを多く従えていたらしい。
奥さんだけでなく従魔までも。なんというか凄まじい包容力だったんだね。
カエデは幼いころから身近に英雄王の話を子守歌のように聞き、それら絵画を見て育ってきたらしい。実はこの国宝級の品々は爵位を奪われた際、当然のように皇帝によって没収されたのだが、何故かすぐに持ち主へと帰って来た。
何があったかはわからないけどね、とカエデは片目をつぶった。……知りたいような知りたくないような。
「ところで、その魔道具はリュシアンのオリジナルなの?」
食事の準備をするために昼食でも使った魔導コンロを取り出すと、カエデは興味津々と言わんばかりに手に取って、上から下からと念入りに眺めた。続けて中身の入った鍋を取り出して、三人分の分量を小さな鍋に移した。さすがにいつもの大鍋では多いからだ。チョビの新鮮な葉っぱと、ペシュの果物も皿に載せる。
「……貴重な書物を見る機会があってね。たまたま魔石が手元にあったから、少し改良しただけだよ」
王城にあった生活魔法の魔法陣の中には、魔石を使うことにより半永久的に使える技術なんかもあった。これも魔石を湯水のように使えたからなせる業で、必要諸経費を考えるとあまり現実的ではない。もしかして、かつてはモンスターから確実に魔石を落とさせる手法でもあったのだろうか?
実のところ、レベルアップにはこの魔石と密接な関係があるのだけど……うん、これって学園の研究材料に丁度いいのではないだろうか? 無事に帰れたらみんなに相談しよう。
「ゾラさんはまた偵察?」
「うん、徹底的にやらないと落ち着かないみたい」
とても仕事熱心なんだよ。と言うと、カエデは少し呆れたような顔をした。
「……ゾラさんも報われないわね」
翌日早朝、僕らは予定通り出発した。そして再び日が暮れた頃、頑張って歩いたおかげで少し早めに目的地に到着することができた。幸いなことに追手に見つかることはなかったようだ。
辺りはすっかり薄紫色の闇が降りていたが、元はギルド出張所だった管理小屋から明るく漏れる光で、湖の水面は少しだけキラキラと光を反射していた。
「あれ……?」
その光景を見た瞬間、僕は思わず立ち止まった。
この景色……どこかで?
お読みくださりありがとうございました。




