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英雄

「そうね、何から話すべきかしら」

 

 こちらの世界の事をほとんど知らない僕の為に、カエデはこの世界の勢力図的な説明から入った。

 

「まずは頂点に帝国があり、その属国がいくつかあり、なによりソティナルドゥ神を祀る神殿がある場所を聖地とした特別自治区があるわ。大陸の丁度中央、神界への入り口ともいわれるソナ大瀑布の近くよ」


 ソティナルドゥ神は聞いたことがないな……ソナ教は聞いたことがあるけど、そもそもソナって地名だったの?

 もとより一神教ではなかった元日本人の僕にとって、どんな神を信じるかとかいう拘りはあまりなく、なんの疑問もなく教会でお祈りしてた気がする。

 それにしても、神さまの名前と滝の名前がなんで入れ替わってるんだろう。

 その疑問に、カエデはあっさりと答えを出した。


「もともとソナという名のエルフが、女神に昇華して主神にソティナルドゥという名を貰ったと言われているの。たぶん大陸がこちらから別れた時に名前がごっちゃになったのね」


 おそらく信仰の対象は同じなのだろう。ただ、教会の規模が僕たちの世界とは天と地ほどの差があるようだ。皇帝に意見を言えるほどの影響力を持ち、帝国の行事のいくつかを牛耳り、大半の国民の信仰を集めているというのだ。形こそ帝国の領地だが、事実上、治外法権なのですでに一つの国と言ってもいい。


「ソナは元エルフって言ってたけど、エルフが神になるなんてことあるの?」

「うーん、どうかしら?どちらにしても、エルフが神の子だったっていう神話の時代の話だし、もしかしたら物語かもしれないわね」

「ごめん、話しの腰を折って。続けて」

「貴方もエルフだもの、気になっても仕方がないわよ。でも、まあ長くなるしその辺は端折るけど……で、今その教会と皇帝の力の均衡が危うくなっているのよ」


 彼女の中では、僕はエルフ認定のようである。どうやら人間という種族に、残念ながらあまり良い印象を持っていない様子だった。


「教会が力を持ちすぎた、ってこと?」

「そうね、それもあるけど……皇帝家の力が弱まった、というのが一番の理由ね」


 聞けば、ここ数十年は特にひどく、市民の反乱、属国同士の小競り合い、果てはクーデターや、後継者争いなどなど、不祥事のオンパレードだったというのだ。


「よく存続したね……」


 逆にそれだけのことがあって、何とか持ち直してるってすごいな。


「それは、ひとえに過去の英雄の威光よ」


 フォルティア帝国を建国した英雄。

 約千年前、元は爵位も地位もない、その人物はどこから来たのかも知れぬ流浪の若者だったらしい。

 その当時、すべての種族はそれぞれの勢力を主張するばかりで、ほぼ戦争状態だったらしい。それを和解に導いたのがその若者だったらしく、最終的に全種族が交流しつつ、たくさんの豊かな国を作る原動力になったらしい。

 そこには壮大なストーリーがあったに違いないが、全部を聞いていると日が暮れてしまうので、話したそうにしているカエデを窘めて、簡潔にまとめてもらった。


「名前は確かミークーリャ・ムトー。人族で、なんでもスゴイ無口な方だったらしく、会話のほとんどを彼の従者だった女性が担っていたらしいわ。その女性は魔族だったらしいけど……」


 あ、ムトーって苗字じゃなかったんだ。っていうか、それって御厨 霧灯むとうとか、キラキラネームだったりしてね。もっとも、ミークーリャなんて変な風に伝わってるし、ムトー自体、もっと違う名前の可能性もあるけど……それか本当に、そんな名前のこっちの人だったのかもしれないけど。

 でも、無口だったっていうし、それって言葉が通じなかったんじゃないかな?その従者だった魔族の女性の、例えばテレパスとか、そんな能力で通訳してもらってたとかあるよね。

 でもまあ、そんな漫画みたいなことがあるわけないか……。


「さっきも言ったけど、実際クーデターや皇帝暗殺なんかもあって、世代交代が激しくてね、何代も前から完全に英雄の血、その証を失ってしまったのよ」


 なるほど、英雄の威を借りて国をまとめていたのに、その根源を失ってしまってはさぞかしやりにくいだろう。


「そっか、英雄が人族ってことは……」

「ええ、子供たちは長命な母親の血を受け継いでいましたが、人族の血が入るとどうしても寿命は短くなるので、今となっては皇帝家に直系は存在しないかもしれません。妻の一人だったエルフの女性が、最近まで存命だったという話も聞きますが所在がわかりませんし……そこで私というわけです」


 どうやら話が核心に来たようだ。……ん?妻の一人?


「……奥さんは、全員違う種族で七人いたそうです」

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