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冒険者カード2

 すべての身分証は、ほとんどの国や町で共通とされている。それは各ギルドカードでも同じことだ。ギルドではじめてカードを作るということも多いが、学校などに入学すると学生証としての身分証を貰うことになる。身分証は追加項目として機能が増えていくだけで、ずっと同じものを使うので、すべてのカードはどんなものでも様式は共通なのだ。

 そして彼女が持っていた身分証は、ごく見慣れた様式のものであった。

 もちろん昔のこととはいえ、過去においては共通の通貨、身分証を使っていた隣同士の大陸だ。様式が同じであったとしても、それ自体は不思議なことではない。

 ただし、この三百年の間に技術は進歩してカードの機能は変わっているし、新しく興った国もあれば、滅びた国もある。カードの情報は当然ながら刻々と移り変わっていき、それらの更新はカードを使用する際に、自動的に新たな情報が書き替えられていくという仕様なのである。

 お互いの情報が途切れて三百年、カードの機能はもちろん、記録されている情報も同じはずはない。現にオービニュ領は、もとはといえば百年ほど前に魔境を調査するための拠点として開拓された新しい土地だ。三百年前には影も形もなかったのである。


「私の魔力に反応して…、現在地が記されている」


 そう、ジーンが手に取るまで所在地不明となっていたカードに、モンフォール国オービニュ伯爵領の冒険者ギルド、と間違いなく明記されたのだ。ジーンはもちろん、僕もリアムも驚きを隠せなかった。なぜなら、当然そこは照合できない、と反応するはずなのだ。


「まさか、これは…」

「このカードに、このオービニュ領の情報があったということですね?」


 思わず言葉を濁した先を、僕が引き継ぐ形できっぱり答えるとジーンはゆっくりと頷いた。失われた大陸からやって来たはずの少女が持ってきたカードは、何故かこの地で発行されている各種身分証明カードとなんら変わらないものだということだ。もちろん、この一点だけでは断言できないし、このカードが何らかの技術で、ここの情報を読み取ったとも考えられた。

 なぜなら、彼女が来たととされる大陸は、もともとこちらの大陸よりずっと魔法技術が発展していただからだ。


「このカードの情報が正しいとするなら、彼女の身分は確かに冒険者ですね。プライベート欄はプロテクトがかかってますので出身地などはわかりませんが、冒険者登録は一週間前で、アルヴィナとなっています」


 ジーンが身元を確認するためカードを弄ると、当たり障りのない情報のみが現れた。ギルドマスターが、特別な権限を使えばもう少し開示もできるが、犯罪に関係するなどの理由がなければむやみに行使することはできない。


「しかし、やっぱりこのカードで国境は…」


 リアムが気がかりそうに彼女を見て、ジーンの方へ視線を移した。やはり同族の血が流れているせいか、珍しく同情的になっているように見える。


「普通はアルヴィナってどこ?ってなりますよね」


 思わず呟いた僕の言葉に、二人は苦笑しつつも頷いた。

 正直なところ、僕だってアルヴィナの名前は知らなかった。例の大陸の情報は、歴史でもたいして語られることはなく、それこそ王立図書館の奥深くに眠っている伝承記など、極わずかな資料しかない。

 そんな訳のわからない場所のギルドカードを提示されても、却って怪しまれるのがオチだろう。

 

「…方法が、ないわけではありません」


 心配そうに見守るカエデに、ジーンは確認を済ませたカードを返しながらそう言った。

お読みくださりありがとうございました。

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