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抱負

 教養科生徒として、最後の春の祭典が始まった。

 学園都市あげてのお祭り、武術大会及び各研究発表会である。

 エドガーとリュシアンは、いつものように救護テントの住人だ。そして驚いたことに、ダリルも一緒に奉仕活動に参加していた。

 なんと従魔のノルが回復(小)を覚えたのだ。もともと解毒(中)は持っていたが、どうやら初級の回復魔法を覚えるらしい。さらに進化のカウントダウンも何気に進んでいた。ダリルは普通に冒険者もやっているので、レベルを上げる機会も多いのだろう。

 そんなこんなで晴れてリュシアンは十才になった。

 年の近いアリスが十三才、一番年上のダリルは十七才、もうすぐ十八になる。見かけだけならエドガーとダリルは大人の青年と何ら変わらない。ニーナもすっかり大人っぽくなり、アリスは背丈こそ小さいが愛らしく成長した。

 リュシアンはというと、一人だけ時間が止まったかのように姿形があまり変わってなかった。というか、もうこの話題は禁句になっているほどだ。


 ニーナとアリスは、春の武闘会ではすっかり有名人である。

 また魔法部門では、エドガーとダリルもそこそこいい成績を上げていた。リュシアンは、相変わらず巻物での戦闘ということで、大会では不利になるため出場していない。召喚獣部門や武闘部門での参加を求められたりもしてたが、もともと召喚魔の授業も取ってないし、ナイフ術は飽くまで護身術だからと言って断っている。

 リュシアンとしては材料を惜しみなく提供してもらって、心行くまで調合が出来るこの機会を割と楽しんでいるのだ。稀に出来る、超成功品が貰えるのもお楽しみの一つだった。

 もちろん、たまに校医のユアンへのお裾分けも忘れない。

 お礼として、鳥人族が独自に編み出した魔法陣や、薬草学などを教えてもらったりと、リュシアンにも旨味はあるのでやり甲斐もあるというものだ。


 そんなお祭りが終わると、いよいよ夏の長い休暇に入る。

 去年は魔法陣の研究に明け暮れて里帰りを怠ったため、後でめっちゃくちゃ怒られた。ついでにゾラを通じて王様にも怒られた。どうせ王都には行かないんだから関係ないと思うんだけど……

 ということで、今年は必ず帰ると約束しているのである。

 もっとも、いろいろと話すこともあったので丁度よかった。今回の里帰りは、教養科修了の報告と、冒険者になるという許可を貰うためでもあったのだ。

 




 学園を発って数日、船に乗るためにドリスタンの港町へと向かっていた。先ほど昼食を食べたばかりで、エドガーはリュシアンの隣ですっかり眠ってしまっている。チョビもペシュも、いつもの定位置で夢の中だ。

 エドガーは一昨年おととし同様、リュシアンの実家に寄ってから王都へと向かうつもりらしい。ちなみにダリルは誘ったけど来なかった。彼には冒険者としての仕事もあるし、そのうち機会があったらまた誘うことにしよう。


「学校側は相変わらず認めないけど、生活魔法の魔法陣が二つも成功したのは最大の功績だったわね」

「そうだね。でも単位はくれるし、僕は満足だよ」


 向かいに座っているのはニーナとアリス。今回は、はじめから二人と一緒である。なんでもリュシアンの家を経由しての、モンフォールの王都、城下町、そしてエドガーの招待によるお城での滞在、という旅行を兼ねた里帰りだという。ぐるっとモンフォールを満喫してから、最後にドリスタンの王都へと行くようだ。さすがお嬢様二人組、優雅な予定である。


「例のウオッシャーだっけ、あれも完成したのよね」

「そうよ、今年度は頑張ったわ」


 アリスの質問にニーナがもちろん、と頷いた。

 彼女にとっては、なによりウオッシャーの魔法陣が一枚で済むようになったのが嬉しいらしい。これからは遠慮なく頼めるわ、とはしゃいでいたが、果たして今まで遠慮などしたことがあっただろうか?

 あとは火を熾す魔法。これも攻撃魔法の火の魔法と違って、闇魔法が小さくくっついている。炎の大きさの微調整の為と、マッチのように数秒でその炎を消滅させる効果を持っている。

 ちなみに去年完成させた魔法陣は、その前の年に作った飲み水が出る魔法陣に、新たに火の魔法を加えお湯を出す魔法だ。これも温度を調節すれば、お風呂などにも大変便利な魔法である。

 一見しょぼいが、いずれも光や闇魔法が入っており、呪文で唱えられる人間は少ないだろう。マッチ持ってけば?って言われれば、まあその通りなんだけど、生活魔法なんだからそんな感じの用途が多いのは仕方がない。


「この魔法陣、写生できたらなあ…そしたら、リュシアンの功績も認められるのに」

「そうよねぇ…」

「…正直な話、できるんだけどね」


 だよねー、と相槌を打ちかけた二人は「え!?」と、素っ頓狂な声を出した。


「ほら、前にも言ったよね。ダンジョンで…」


 もっともリュシアンとしては、昇級の単位さえ貰えれば十分だと思っていた。もともと特殊な固有スキルを前提に、勝手な研究をしているのだ。それで単位をくれるのだから、むしろ太っ腹だとさえ感じているくらいである。


「ダンジョンで……?なんだっけ」

「…あ、あれかな、レベルが足りない」

「ビンゴ!」

「え?び、ビンゴ?」

「あ、いやいや、大正解ってことだよ」


 もともと以前から、なぜ写生が出来ないのかと考えていたのだ。

 巻物への描き方が特殊なので発動は自分にしか出来ない、これは仕方がないとして、写生が出来ないのはそれとは無関係ではないかと考えたのだ。

 それで思いついたのがレベル不足。なにせ生活魔法は複数属性が当たり前で、しかも光や闇が普通に入っている。必然的に写生レベルが上がってしまう。さらにそれを改良して一枚にしているわけで、写生レベルも相当高くないと写すことが出来ないだろうと気が付いたのだ。

 それにもし写生できるとして、そんな国宝級の写生レベルの人間によって作成された生活魔法の巻物……誰が使うの?ってなってしまうだろう。

 

「そういう事か…確かにね、便利なのに実用的じゃないわね」

「もともとそれで生活魔法が広がらなかった訳だしね」


 この件は、こっそりエイミにも話したんだけど酷くがっかりしていた。ただ、同時にレベルさえ見合えば写生が可能なわけだから、引き続き生活魔法の魔法陣の写生を試みたいと息巻いていた。本当に成功するとすれば、おそらくとんでもないレベルを必要とするが、研究なんてものは終わりが見えないものも珍しくはない。

 

「でも魔法陣の一枚化って、普通の魔法にも適用出来るわよね?」

「並列魔法陣なら、たぶん…」

「ねえ、来年度はその辺やってみない?」

「うん、面白そうだね。ただ、通常の魔法陣はかなり複雑だから簡単じゃないと思うよ」

「覚悟の上よ」


 同じチームのダリルに確認を取ってからにはなるが、来年度の新たなテーマが一つ決まった。リュシアンもニーナも次年度からは自由時間が増えるし、難しい課題をじっくりやるのも悪くないかもしれない。それに、光や闇の入らない普通の魔法陣の一枚化なら、逆に写生できる者もいるかもしれない。

 それでも難しいとは思うけれど、完成したらエイミに最初に教えてあげようと思った。


「いいなあ…私も早く教養科卒業したいな」

「アリスなら、普通に過ごせば問題なく修了できると思うわ。来年度は一緒に何かやりましょう」


 そうこうしている間に、街道を順調に進んできた馬車はやがて大きな港町にへと到着したのである。

お読みくださりありがとうございました。

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