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ワープの魔法陣

 意味を掴み損ねたような…、あるいは滑ったような変な間の後、再びエイミが有りえないと首を振った。


「ワープ陣の研究はそれこそ国を挙げての研究だよ。写生の最高レベルの人達が呼ばれて…、それでも」

「うん、そうだね」


 油断すると覆いかぶさってくるエイミを押し返しながら、その台詞にかぶせるようにリュシアンはにこやかに頷いて、嵩張って邪魔な巻物を取りあえずフリーバッグへと仕舞った。


「だからさ、レベルが足りないんだよ」

「………え?」


 何百年も前に存在したとされる上位写生レベル伝説級、そしてさらにその上、神話級。はたまたそれ以上の使い手もいたという。そんな時代に描かれたワープなどの転移系の魔法陣。

 転移魔法は特殊で、なぜか呪文だけでは完結せず、必ず魔法陣に起こす必要があった。よって、現在においては忘れられた魔法の一つなのである。

 結果的に転移の魔法陣は、その後なんの改訂も進化もしていない。

 そのため言語も古く、ますます研究者泣かせの魔法陣でもあるのだ。

 もっとも形式が古かろうと必要レベルさえ到達していれば写生自体はできるわけだが、そのレベルこそが一番の難関と言えるのである。

 リュシアンがそれに気が付いたのは、例の自分のオリジナル魔法陣のことが有ったからなのだが…、

 詳しくはまた今度にでも、と断って、リュシアンはワープの魔法陣がいつでもどこでも一回限りではあるけれど使えることを皆に伝えた。

 通常、ワープの魔法陣が描かれている地面には、魔導器などに使われているのと同じレア金属による永続化の処理が施されているが、リュシアンの巻物は紙製なので、他の巻物と同様一回使えば終わりである。この魔法の性質上、一度展開すれば数分間は起動しているが、時間が立てば消えてしまう代物なのだ。

 今回はこれ一枚しかないし、できたら使いたくなかったんだけどね。と、リュシアンはちょっと苦笑していた。

 なにしろ、これを作るための特殊な大きさの魔法紙を作るのにもかなり苦労したし、念写の際にも思った以上に膨大の魔力が消費されて驚いたのだ。

 とんでもない魔力量を誇るリュシアンが、消費した魔力を回復するのに丸一日を要したくらいである。ましてや念写する時間も、軽く数分はかかった。

 スキル発動時に無防備になる弱点の事を考えると、ダンジョンでポンポン量産できるものではないのだ。


「…わかったわよ、私はオッケーよ」


 皆まで言うまでもなくニーナやアリスは了承して、ダリルはひどく面倒くさそうにため息をついた。


「正直なところ自業自得な気もするが…、近くで遭難しているのをわかってて見捨てるわけにもいかないか…」


 エドガーも、やれやれと苦笑しつつも反対するつもりはないようだ。

 こちらの安全と天秤にかければ、それはもちろん言わずもがなではあるが、いざというときの脱出経路が確保されているというのなら、あと半日くらいは探索に費やしても構わないだろう。

 

 この救出にしたところで、この件をうやむやにしない為という意味合いも強い。遭難していくらも経過していない段階で、協力を求めるならまだしも有無を言わさず他人の物を強奪するなど、よほど反省してもらわないと困る。

 説教癖のついたおっさんのような余計なお節介かもしれないが、それが自分に出来ることならやってしまうのがリュシアンの、ある意味悪い癖である。

 世話焼き癖というか、もともと中間管理職だったあの頃から上司の面倒ごとから部下の失敗なども背負い込み、やたら仕事を増やし抱え込んでいたものである。なまじそれでも完璧に仕事を熟してしまえるので、本人でさえ無理をしているという自覚があまりなかったのだ。


「ねえねえ、そのパーティが例の空白地帯にいなかったら?」

「…その時は、脱出しよう。それ以上は探索しない」


 アリスの問いかけに、リュシアンはこれにはきっぱりと答えた。

 流石に仲間の命を巻き込んでまで行方を捜して、何が何でも連れ帰るほどの義理はない。無情にも思えるけれど、出来ることと出来ないことの線引きの判断は間違えるわけにはいかない。

 それを聞いて、今度こそ全員が納得したようだ。

 

「ありがとう、みんな。それじゃあフランツさんたちは、ペシュを案内に付けますので、3階層まで戻ってワープで地上へ…」


「ええ!?ち、ちょっと待ってよ」

「…なにか?エイミさん」

「何かじゃないわよ!私も一緒にいくわ」


 それまで呆然と成り行きを見守っていたフランツは、そこではっと気が付いてエイミに続いた。


「あの、僕達でお役に立つなら…」

「お気持ちはありがたいのですが、大人数になると却って身動きが取辛いので先に脱出して頂けると助かります」

「そ、そうですか、それなら仕方がありません。こちらは助けられた身ですので…」


 無理は言いませんと、続けるフランツの台詞に重ねてエイミが口を挟んだ。


「盾役でもなんでもやるから、お願い!」

「エイミ?どうしたんだ、一体」

「だって、あの魔法陣が展開するところ見たいんだもん…」

お読みくださりありがとうございました。

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