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追跡

「ッ…!」 


 リュシアンがテーブルに手を付いて、もう片方の手で頭を押さえた。


「リュシアン?!」

「…攻撃された。…ペシュ、ペシュ!?ダメだ…感覚的には、攻撃は当たってはないと思うけど…」

「だ、大丈夫?」

「僕は平気。いきなり回線が切れて驚いただけ…ただ、ペシュが」


 ニーナが思わず立ち上がり、隣に座っていたアリスも心配そうにこちらを伺うのに、リュシアンはこめかみを押さえるようにして顔を上げた。

 ――あそこは空白地帯だった。

 空白地帯には基本的にモンスターは入れない。入れるとしたら、結界を無効にする特殊なモンスターか、契約従魔くらいである。当然、誰かの契約従魔だとわかりそうなものだ。

 カイのチームのように、連日モンスターから逃げ回り極限状態になって反射的に反応しただけとも考えられたが、リュシアンは少し胸騒ぎがした。


「とにかく、すぐに準備して向かおう」


 離れてはいても、従魔のステータスは主人であるリュシアンには把握できる。まだ回線は切れたままだけど、ダメージを受けた様子はない。おそらく攻撃を受けたショックで、スキルが解除されただけだろう。

 問題は、あの少女である。

 もちろんあれがエイミではない可能性もある。何しろ、ペシュを通して見える視界はくっきりはっきり視えるわけではないのだ。もしかしたら、たまたま似たような人物がいるパーティという可能性もある。


 出発の準備が整う頃、ようやくペシュからの通信が復活した。

 突然視えたのは、先ほどの少女がパーティの面々と言い争っている姿だった。どうやらペシュは、その彼女の手に乗っているようである。

 あの時見たエイミっぽい女の子だ。

 リュシアンは微かに聞こえる声に耳を傾けた。この状況はともかく、彼女がエイミであることは間違いなさそうである。

 それと同時に、だんだんと雲行きが怪しくなってくるのも手に取るようにわかる。数で勝るパーティのメンバーたちが、エイミを拘束しようと近づいてきたのだ。

 やがて、ペシュを抱えたエイミはくるっと踵を返し、空白地帯を飛び出した。その手には、ペシュに持たせた小さなメモが握りしめられていた。


「…エイミさんは、ペシュの持っているメモに気が付いたみたいだ」


 ペシュの先導で、エイミはこちらにまっすぐ向かっている。通路の詳細がわかっているペシュの先導により、パーティからは距離が取れている様子である。相手も、下手に追って迷うことを恐れたのか、それほど執拗には追ってくる様子はなかった。


「よかった…じゃ、無事なんだね?」

「はい、今はペシュもこちらと合流するべくエイミさんを案内しています。おそらく次の階層で合流できるでしょう」


 フランツたちは、それを聞いて一様に胸を撫で下ろしている。

 

「それで、そのパーティも一緒にいるの?」


 ニーナの問いかけに、リュシアンは無言で首を振る。

 トラブルの件を今話しても仕方がないし、フランツたちの心労も増すばかりだろう。とにかく、急いで合流するのが先決である。

 

「それじゃあ行くよ、僕の後について来て。モンスターは基本的は倒すけど、無理はしないでね」


 ペシュの通った道筋を辿り、リュシアンはダンジョンを歩き始めた。罠やモンスタールームを確実に避けて最短ルートで進んでいく。

 

 彼らはたぶん、誰よりも早く3階層のワープ陣までたどり着き、そこからさらに次のワープ陣を目指していたパーティだろう。もちろん実力もあり、そして油断もあったに違いない。

 彼らからすれば、ここは格下のダンジョンのはずだったし、攻略よりも一番で最下層への到着をめざしていたのだろう。

 ところが、いきなりのダンジョン変化という事態に見舞われ、彼らはパニックを起こした。冷静に行動することができなかったのだ。落ち着いてさえいれば、レベル的には対処できないほどの難易度ではないのだから。


 引き返しはしたものの下手に動き回り消耗したせいで、旧3階層に戻る前に身動きが取れなくなり立ち往生を余儀なくされていた。防具は傷つき、武器は消耗し、薬は底を尽き、食料は残り少ない。この先、どこまで続くかわからない迷宮を探索する気力を失って、ようやくたどり着いた空白地帯で途方に暮れていたところに、運悪くエイミが飛び込んで来たのだ。

 エイミにしてみれば、これで助かったと思いきや逆にピンチに陥ったのだから泣きたくなったに違いない。


 そして、彼らに食料を入れた小さなポーチを奪われた時、前触れなくいきなり目の前に飛び込んできたのがペシュだったのである。

お読みくださりありがとうございました。

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