バトル
リュシアンは巻物を準備して、エドガーとダリルは詠唱を開始した。
戦闘開始と共に、全員で一気にたたみかけるように攻撃を叩き込む。まずは火力の大きい攻撃でできるだけ数を減らし、逃げるモンスターはそのまま逃がし、向かってくるのだけを近接担当が相手をした。
「カミラ、そっちちょこっと行った。ビー、よろしく」
「了解です!行くわよみんな」
ニーナたちの脇をすり抜けたビーが二体、中央で前衛の打ち漏らしを担当しているカミラたちを上空から襲ってきた。集団なら怖いビーも、二体くらいならなんてことはない。いつもなら、もちろん楽勝の相手だった。
けれど、いかんせん動きが鈍かった。カミラのチームの下級生は、前方でニーナたちが相手をしているキラーアントのあまりの大きさと攻撃力に腰を抜かさんばかりに怯えていたのだ。
キラーアントはダンジョンモンスターなので、たぶん初めての遭遇だろう。しかも、このくらいの浅いダンジョンだと、下手をすると最下層まで出会わず仕舞いということさえある。
「きゃっ…」
「アン!くっ…魔法で援護して、誰かアンを起こして早くっ」
へっぴり腰で剣を構えていた金髪ツインテールの少女が、身体を振ったキラービーの胴体に殴打されて尻もちをついてしまった。もう一匹を相手にして手が離せなかったカミラは、慌てて後衛の魔法使いに目配せをした。
「大丈夫、カミラはそっちに集中して!」
そこへ、いつの間にか駆けつけていたリュシアンが、アンに手を貸して引き上げていた。そして、アンに覆いかぶさろうとしていたビーは一緒に戦っていた少女の一人が切り結び、魔法を使える後衛が援護を開始した。
ニーナたちの戦線がやばくなることはないと踏んで、リュシアンは初めからカミラチームの方を注視していたのだ。
もともとリュシアンは、今回はほぼ予備戦力である。
この戦闘をカミラたちも了承したとはいえ、ここまで連れてきた責任はある。いざというときの予備戦力の投入、という援助は初めから計算に入れていたのである。
「キラーアントは、ニーナ達に任せておけば大丈夫!こっちは漏れてきたのだけ確実に潰してね」
その掛け声に、明らかにカミラたちはホッと息をついた。カミラは本来の落ち着きを取り戻し、サブウェポンのバックラーに内蔵されている片手弓を駆使して、キラービーを確実に仕留めていった。
そして最前線では、ニーナとアリスが奮闘していた。
ジェリー戦では歯がゆい思いをしていたのか、まるで発散するように大いに張り切っているようだった。
エドガーとダリルの攻撃魔法がモンスターの数を削ると、ニーナとアリスはそれをすり抜けてきたキラーアントに飛びかかっていった。
下段から硬い顎を切り上げ、その勢いのまま横に薙ぎ払うと、バカンッと気持ちがいいくらいにキラーアントの足が飛んだ。横に薙いだ大剣はその場にいた数匹のキラーアントを巻き込み、いっぺんに横倒しにした。
それに続き、ニーナはバランスを崩したキラーアントに蹴りを入れ、硬い頭を一瞬で弾き飛ばす。
そのまま空中で身体を捻り、倒れたモンスターを足場に、次々と他の個体も同じように倒していった。少し残酷なようだが、キラーアントは頭を潰さないといつまでも襲い掛かってくるのである。
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