3階層…?
「なんだか、地図と全然違うわね」
リュシアンたちは、翌日、朝早くに地下の3階層まで下って来た。
地図を持ったリュシアンの指示通りに先頭のニーナは進んでいったが、これまでに数回に渡り、行き止まりに阻まれてしまった。
「ここも、本当は部屋の扉があるはずよね?」
アリスも手を腰に当て、困惑したように首を振った。
「うん、それにそろそろ中心部に着いてもいいと思うんだけど…」
行き止まりや、不確定な部屋を迂回しながら、なんとか先へと進んで来たリュシアンだったが、ついに足を止めた。本当ならもうワープ陣がある中央部に着いてもおかしくないのである。
「モンスターも相変わらずジェリーが多いしな」
ここまでのエンカウントはジェリーと昆虫型だけだった。本来、3階層辺りは2階層に続いて小鼠のような低レベルの動物型モンスターが多いはずなのだ。
「ワープ陣、どこいっちゃったの?」
「おっ…、あっちに拓けた場所があるじゃねーか、あそこなんじゃねえ?」
不安そうに呟くアリスに続いて、ちょっと痺れを切らした風のダリルが先頭まで来て前方を見渡した。すると通路の切れ目に、ずっと奥行きのある部屋が見えてきたのである。ダリルはそこを指さしてダカダカと早足で前進した。
「あ、こら、勝手にいかないでよ」
「ダリル、待って!ワープの部屋には扉があるはずなんだ、そこは違うって…」
迷いに迷って、イライラが募ったダリルが暴走し始めたのをニーナが引き留め、そのあとにリュシアンが注意を促した。ダリルを追いかけるようにパーティは少し駆け足になり、自然、後方のエドガー達はほとんど走る羽目になった。
「おい、急にどうしたんだよ」
立ち止まった前の集団に追いついたエドガーは、ちょっと不満そうにリュシアンに文句を言った。
「キラーアントだ…」
「ん?ああ…、確か地下型ダンジョンならどの階層にも出るってアレか」
拓けたその場所、恐らく階層の中央だろうその空間にぽっかりと広場があった。空白地帯ではない為、モンスターがうようよと歩き回っている。
キラーダンゴがゴロゴロと転がり、ムカデのような足のいっぱい生えた長い虫が這いまわり、故郷の森にもいたキラービーが飛び回っていた。
「いやぁ…、気持ち悪い」
「う、私もこれだけいるとダメ」
「……」
ニーナが腕をさすって身震いし、アリスが心持ち青い顔で首を振り、カミラに至っては絶句してしまった。
「ダンゴやビーはともかく、この数のキラーアントは洒落にならねぇぞ」
ダリルは背中から盾を下ろして、メイスを取り出した。まだモンスターに気が付かれてはいないようだが、いざ戦闘になれば、この状況だと乱戦になる可能性がある。見たところジェリーはいないので、カミラ達も戦力に数えてもいいはずだが、うじゃうじゃの虫に少し引き気味なのでちょっと不安だ。
いわゆる雑魚モンスターのキラーアントだが、浅い階層あたりでは最強モンスターと言ってもいい。基本的には低階層では出会う確率は低く、複数で遭遇することも稀なので本来はレベルが足りなければ逃げるという選択肢もあるが、この昆虫ゾーン(仮)には、なぜか大量にいて回り込まれる可能性が高い。
どこかに迂回ルートがあるなら、こんなところは迂回すべきだが、さんざん迷った挙句ようやくたどり着いたのがこのルートだったのだ。おそらく必ず通らないとならない部屋の一つなのだろう。
「難易度むちゃくちゃだよ」
初心者ダンジョンの3階層レベルの強制イベントとしては、この数の討伐はかなり厳しいと感じる。そこへ持ってきてキラーアントの団体様である。
「ニーナ、アリス盾役お願い」
「了解」
とはいえ、ここで泣き言を言っても始まらない。引き返す選択肢もないわけではなかったが、もともと最下層まで潜るつもりでダンジョン攻略を開始したのだ。数こそ馬鹿みたいに多いが、キラーアントの他は大したことはない敵である。
ここは、もちろんゴーである。
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