続・2階層
結局、リュシアン達は接触を図ることにした。
巻き込まれない程度の離れた場所から合図を送れば、もし救援が欲しければそれなりの反応をするだろう。
通路の道中に、ぽっかり開いた空洞があり、そこから潜るようにして小部屋に入るようだ。地図によると、鉄鉱石の採掘と、キックラビなどの動物系素材の採集が可能、とある。
ちょっとだけ低くなっている入り口から入ると、そこでは八人パーティがモンスターに囲まれる形で戦っていた。おそらくニーナ位の年齢の集団だから、学園三~四年目といったところか。ざっと見、盾職二人、剣士四人、回復一人、魔法使い一人の編成のようだ。もっとも剣を持っていてもエドガーのように魔法を使う可能性はあるが、たぶん彼らは物理系パーティだろう。
このダンジョンが、物理系有利という売りだったので仕方がないが、何ともマズイことに彼らを囲んでいるのはジェリーの大群である。
「どうりで…戦闘が終わらないわけだ」
「連続エンカウントじゃなくて、どんどん仲間を呼ばれてたのね」
形勢不利とはいえ、なんとか戦線を保てている様子なので、リュシアンは確認を取るために声を掛けようとした。すると、今まさにジェリーに体当たりされて尻もちをついた盾の女の子がこちらに気が付いた。
「あっ!あ…た、助け…」
陣形が崩れた隙を狙って、寒天状の赤いプルプルが少女へとダイブした。リュシアンは、咄嗟に投擲用ナイフを引き抜き、無属性の力を乗せて空中のジェリーに向けて投げた。核があるど真ん中に命中し、そのスピードに押されるように身体がひしゃげて壁に縫い付けられた。
そこで少女以外も、リュシアン達に気が付き一斉にこちらを振り向いた。
「もしよろしければ、こちらで倒しても構いませんか?」
いつからこの状態だったのか、彼女たちは声も出ないほどヘトヘトに疲れているらしく、ジェリーに囲まれたパーティはただ必死に何度も頷いた。
「ニーナ、アリス、彼らをこちらに誘導しつつ前に出て、ダリルも盾役よろしく。エドガーはひたすらジェリーを押し込むように魔法で弾幕を」
ペシュとチョビに後ろを警戒させつつ、モンスターに囲まれていたパーティを救い出し、エドガーとダリルの攻撃で確実にジェリーの数を減らした。
「大丈夫そう、かな?巻物は必要なさそう…」
リュシアンは後方で救い出したパーティの護衛をしつつ、打ち漏らしのジェリーをチクチクとナイフで攻撃していた。はっきり言って、ミスリルナイフでさえ倒すのに一苦労である。さっき壁に縫い付けた奴も、いつの間にか逃げ出したようで、壁際にナイフが落ちている。核に刺さったかに思われたあの状態でもこの有様だ。
魔法が使えるなら超雑魚なのに、物理専門にはたちの悪いモンスターなのだ。
「ありがとう、助かったわ。私はこのパーティのリーダーでカミラよ」
なんとか戦闘が終わると、一人の少女が歩いてきた。
すらりと背の高い、いかにも動きが機敏そうな少女だった。腰に挿しているのは細身の剣。その後ろに、ずらりと控えるように女の子たちが並んだ。どうやら、全員女の子のパーティのようである。
「誰も怪我とかない?僕は…」
「…私はニーナよ、無事でなにより。この先、またジェリーが出るかもしれないから、このまま安全地帯まで一緒に行きましょう」
「え…?ああ、失礼、姫様のパーティでしたか」
ナイフを投げて窮地を救った少年が、パーティに指示をしていたのを見ていたカミラは、迷わずリュシアンに歩み寄り握手を求めたのだが、すぐ横からニーナが現れたのでびっくりして手を引っ込めた。
すぐさま改めてお辞儀をしたカミラを押しとどめて「紹介はまたあとで、今はとにかく急ぎましょう」と言い置いて、さっさとリュシアンの手を掴んで列の先頭へと歩き出した。
カミラに差し出した手をニーナに捕まれてしまったリュシアンは、なんだかわからないうちに最前列まで連れていかれてしまっていた。
そして、その後方…
「…なあ、あれってリュシアンの奴は気が付いてんのか?」
意外に鋭いダリルが誰ともなしに問うのに、エドガーはあまりわかってなさそうに首を傾げ、アリスは「どっちもどっちでしょ?」と、にっこり笑って一刀両断した。
だから隙もあるんでしょうけど、と続けてアリスが小さく呟いたのを、ダリルは野生の勘で聞かなかったことにした。
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