マイバッグ
新学期が始まって一週間を過ぎる頃、リュシアン達は再び街にやってきた。防具を新調するためと、例のフリーバッグを取りに行くためである。
「あら、遅かったわね。もうとっくに出来てるよ。ジゼル、持っておいで」
厚手のエプロンに髪を三角巾でまとめ、何やら分厚い革を膝に抱えて作業をしていたジョゼットが、リュシアンたちを見ると歓迎するように微笑んだ。
「自分で言うのもなんだけど、なかなかの出来よ。ベルトとナイフホルダーもお揃いの革で新調しておいたわ」
「ジョゼットさん、ありが…っわ、あの」
ジョゼットは、ジゼルから手渡されたベルトとカバンを、リュシアンがお礼を言い終わるのも待たず、さっそくサイズを確認しながら取り付けにかかった。
「うん…、大丈夫そうね。どう、きつくない?」
「すごいよ、ぴったり。それに機能的で使いやすそうだし、シンプルで格好いい」
後ろ手でもアイテムを取り出しやすい位置で、カバンの蓋は1アクションで簡単に捲れる構造だ。もちろん魔法のカバンなので、他人が手を突っ込んだところで何も取れない。荷物が飛び出す心配もないので、巾着のように絞る必要もなければ、チャックもいらないのである。
「容量は…、ここだけの話、ほぼ無限に近いわ。知られると面倒だから、あまり公にしないでね」
声を潜めて、ジョゼットはひそひそと耳打ちした。
「貴方たちとは、これからもいい関係を築いていきたいもの。私も、秘密は守るわよ。これからも期待してるわ」
そう言ってウインクしたジョゼットは、続いてニーナのマントのサイズ直しと、頼んでおいた毛皮の処理と、紡いだ糸を見せてくれた。こちらも見事な出来で、毛皮の毛並みは白く艶々と輝き、革地もしっかりと処理してある。糸は綺麗に紡がれ、まるで絹のような手触りだった。
「素敵な手触りね、毛皮は防寒具に丁度いいわ。これだけあれば全員分作っても十分足りそう。あ、でも前衛には、戦闘の時かさばるから無理かしら」
「基本的には移動時の防寒具ですもの、気にしなくてもいいんじゃないかしら」
大量の毛皮を前に、前衛組二人がデザインなどを相談している横で、リュシアンは人数分の毛皮を手際よく取り分けて、残りをフリーバッグに仕舞った。
「ジョゼットさん、防寒用マントの縫製もこちらで頼んでもいいですか?」
「もちろんいいわよ。ええと、いち、にい…、五人分でいいのね」
頷くリュシアンに、エドガーはちょっと苦い顔をして、ニーナとアリスは何か言いたげにお互いの目を交わした。
「あの話…、本気なのね、リュシアン」
「やっぱりニーナは反対?」
今ここに居る人数は四人。そして、リュシアンが頼んだのは五人分。言わずもがな、一人多いのだ。
そのことについては、昨夜リュシアンの考えを全員に伝えた。例外なく驚き、なぜそうなった?と、もれなく彼らの頭上には疑問符が躍ったことだろう。
「反対と言うか、いつの間にそんな話になったのか不思議なのよ」
「そうよね、いつも絡まれてたのに」
不思議そうに首を捻るニーナに、アリスも加わる。
「まあ、そうなんだけどね」
リュシアンは苦笑して、ここでは曖昧にお茶を濁すにとどめた。
そしてジョゼットには、紡いだ糸で丈夫な布を織っておいてもらうように頼み、その後の予定を話しておいた。魔獣の毛で作った布は、火にも強く、多少の魔法レジストの効果もあるので、鎧の下に着るアンダーや、ローブなどを作ろうと思ったのだ。
「それじゃ、次は鍛冶屋に行こう」
金属や魔獣の部位を使った武具は、鍛冶屋での作業になる。
リュシアン達は、パトリックが紹介してくれた、もう一つの工房へ向かうことにしたのである。
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